福島第一原発の被災に伴う「計画停電」の実施は、首都圏を大混乱に陥れた。産業も生活も、すべて電力を基盤に成り立つ日本で、即刻対処すべき課題と次に起こる問題とは何か。そしてその解決策は──。大前研一がずばり答える。

この国難にどう立ち向かうべきか

壊滅的に破損した福島第一原発の原子炉3基。消防庁レスキュー隊により決死の放水活動が展開されたが、復旧の目処は立っていない。(写真=陸上自衛隊/PANA)

壊滅的に破損した福島第一原発の原子炉3基。消防庁レスキュー隊により決死の放水活動が展開されたが、復旧の目処は立っていない。(写真=陸上自衛隊/PANA)

東日本大震災で被災した福島第一原発は予断を許さない状況が続いている。その状況自体が1秒ごとに変わるような有り様だから、対応も日替わりメニューにならざるをえない。だが、今後の事故処理および復旧の長期化と派生する難題の数々については、まさに国難として覚悟しなければならない。

原発事故に目を奪われてあまり注目されていないが、今回の震災では火力発電所も甚大な被害を被った。東京電力管内では13基、700万キロワットの火力発電所が一斉にダウンしたのである。

地震のときに原子炉は必ず止まるように設計されているから、日本の場合、そのバックアップは火力しかない。よって日本では原発に負けず劣らず、地震に強い火力発電所をつくってきたはずなのだ。それが簡単に瓦解してしまったのだから、業界全体として大反省のもとに見直さなければならない。

東電は電力不足解消に向け、早期に立ち上げられるガスタービン発電所を新設するなどして全体で4700万キロワット(平年3月のピーク需要)まで回復させようと準備している。春先はそれで乗り越えられても、問題は電力需要が再び高まる「夏場」である。

東電管内の夏場ピーク時の電力需要は6000万キロワット。夏までに4700万キロワットを回復できたとしても差し引き1300万キロワット、約25%足りない。

他の電力会社から融通してもらおうにも、周波数が違うという問題がある。電力事業の黎明期に東日本では主にヨーロッパ系の50ヘルツ、西日本ではアメリカ系の60ヘルツと、周波数の違う発電機を取り入れたことが不幸の始まりだ。東西の境である糸魚川のフォッサマグナに沿って3つの変電所に周波数変換所があり、ここを通さないと電力のやり取りはできない。

現状では中部電力と東電が施設を分け合っていて、全部足しても125万キロワット。両社で半分ずつ取ることになっているから、125を2で割った数字しか融通できないことになる。しかもこの施設は水力発電だから、夏の天候事象によっては安定的に供給できるかどうかさえわからない。

ほかに補う当てがないわけではない。2007年の新潟県中越沖地震で全面停止していた柏崎刈羽原発では7基の原子炉のうち4基は復旧作業が完了して稼働しているが、3基はまだ停止したまま。1基で大体100万キロワットの出力があるから、7基がフル稼働すれば、約300万キロワットのプラス供給が見込める。今回冷温停止までたどり着いた福島第二の4基が復活すれば、440万キロワットが加わることになる。

このようにして電力をかき集めて5200万キロワット程度まで持ってこれれば、夏場のピーク時は電力需要を15%カットすればよくなる。25%のディープカットとは天と地の違いで、15%なら「ちょっと暑いけど冷房は28度に」程度で乗り切れる。

しかし柏崎刈羽原発の全面稼働は福島の事故もあって目処が立っていない。新潟県の泉田裕彦知事は「今の段階では東電から提案がないから何ともいえない、住民が決めること」と言っているが、国難のときだから夏の間だけでも動かしてもらえばだいぶ違ってくる。今回の事故を分析して考えられるすべての安全対策を講じたうえで、(信頼の失墜した東電ではなく)政府自身がそういう方向に働きかけるべきだろう。