国連総会、G20金融サミット……全世界が注目する国際舞台で鮮やかなデビューを飾った鳩山新首相。だが内政は、マニフェストに掲げた子ども手当の創設や脱ダム、年金改革と難問が山積する。一体、何を優先すべきか? 大前氏が直言する。

新首相に課せられる「就任100日」の掟

鳩山由紀夫首相の国連総会・演説は、国内だけでなく海外でも話題に。(AP Images=写真)

鳩山由紀夫首相の国連総会・演説は、国内だけでなく海外でも話題に。(AP Images=写真)

アメリカでは、新大統領就任後の100日間は「ハネムーン期間(one hundred day)」と呼ばれる。新大統領に対する世論の期待が高く、マスコミも厳しい批判を手控えるからである。議会との関係も良好なハネムーン期間中に、新大統領は政策を一気に推し進めていく。

この間に有効な政策が打ち出せれば、新政権に対する世論やマスコミの期待はさらに膨らんで政権の推進力を増す。逆に期待外れのものしか出てこなければ、支持率は急降下、マスコミの批判にさらされて厳しい政権運営を強いられることになる。

自民党一党支配の中で新味のない政権交代を繰り返してきた日本にハネムーンの慣習はないが、今回は総選挙で与野党の第一党が入れ替わるという、戦後日本の憲政史上初の歴史的な政権交代である。世論もマスコミも、期待と不安が入り交じった視線で息を潜めて見守っている状況だ。

世論が望んだわけでもないのに社民、国民新党と連立し、発足前から政策調整に苦しんだ鳩山政権に対して失望や不安を覚える国民も出てくるだろう。野に下った自民党の反撃も予想される。政局好きのメディアが、連立政権の足並みの乱れや民主党内の派閥内紛を報道するようになって支持率が低下すれば、来夏の参議院選挙で自民党が勢力を盛り返さないとも限らない。

新政権としては少しでも早く成果を出し、政策実行能力を示し、長きにわたる自民党政権とは一味違う政権であることをアピールしなければならない。

となれば、やはり重要なのは最初の100日間だ。首相の直属機関として国家戦略室と行政刷新会議が新設されたが、この3カ月、少なくとも半年以内に成果に結びつくような計画を確立するべきだろう。

方向性が決まれば、今度はその中身に関心が移る。軽佻浮薄なマスコミは具体的な政策の内容を我先に抜こうと競い合う。小泉改革のときもそうだった。道路の次は郵政という具合にアジェンダ(課題)を次々と打ち出すことで、小泉内閣は5年5カ月という長期政権を築いたのだ。

鳩山新政権も目指す新しい国家像と国家戦略を打ち出すべきである。マニフェストとの整合性など、細かいことは気にしなくてもいい。民主党のマニフェストなど言ってみれば七夕の短冊のようなものだ。有力議員がそれぞれ好き勝手に思いついたものを、誰かが中心になってまとめるでもなく、つらつらと書き綴っただけのアイデア集にすぎない。民主党のマニフェストには「インデックス2009」と記されていたが、まさに“インデックス=索引”にしかなりえないお粗末な代物。そこには民主党としての哲学も体系的な思想もない。

そもそも、今回の総選挙で民主党に一票を投じた有権者の多くは、マニフェストをじっくり読んで決めたわけではない。マニフェストに賛同したというより、自公政権にお灸を据えることが第一義だった。マニフェストというのは選挙が終われば忘れ去られる存在。過去のマニフェスト同様、今回のマニフェストだって4年も経てば誰も覚えていないし、むしろ忘れてもらったほうがいい。