ピーク時の使用量を15%減らす方法

突然の「計画停電」と節電によって首都圏の交通網は大混乱した。(写真=ロイター/AFLO)

突然の「計画停電」と節電によって首都圏の交通網は大混乱した。(写真=ロイター/AFLO)

重要なのは節電ではなくピーク時の電力使用量を下げること。そこにだけ集中する。電力需要を15%カットするアイデアはいくらでもある。電力需要が重ならないようにすればいいのだ。

たとえば、企業や工場は操業する曜日を週5日から選択し、計画的にずらして電力消費を平準化する。サマータイムを導入して太陽の力を借りたり、フレックス勤務制を取り入れて就業時間が重ならないようにしてもいい。また会社の夏休みを7~9月に分散させるのも効果的。複数の会社が入っている雑居ビルなどは、ビル単位で就業時間や休みを合わせるように協力する。

夏の高校野球をやらないというのも重要な提案である。毎年、甲子園大会が行われる時期の午後3時頃が夏場の電力需要のピーク。人口の20%以上を占める高齢者が冷房の効いた部屋でテレビを見るから、年々このピークが大きくなってきている。そもそも心身ともに過酷な夏に高校野球をやらないというのが一番で、開催時期を変更するか、思い切って今年は中止にしてもいいのではないか。また今年に限って言えば、夏場は昼間緊急ニュース以外は一切テレビを放映しない、というところまで追い込まれるかもしれない。

最低15%の電力カットを個人の責任で実践する、というのも大切な視点だ。電力需要が集中する日中のど真ん中には冷房を入れないように努力するだけでも、大いに貢献できると思う。とにかくピーク時の消費電力を減らせばいいので、寝苦しければ消費電力が少ない夜中に冷房を少しつけたって構わない。そこを勘違いしてはいけない。

今夏さえ乗り切れば、後はなんとかなる。次の夏までの1年でできることはいろいろあるからだ。新しく立ち上がる火力発電所もあるし、原子炉と違って一度火を落とした火力発電所を再興するのはさほど危険なことではない。

来年以降は、今からケーブルを補強すれば北海道電力から電力をもらうこともできるし、その延長で樺太の豊富な液化天然ガス(LNG)で発電してもらい、ロシアから稚内経由で買電することもできる。東西グリッドの完全接続となると相応の工事費用はかかるが、今回の惨事を踏まえれば世論の支持は得られるだろう。1000万キロワットの融通ができるようにするには2年の工期と1兆円の工費がかかるという試算もあるが、スイスに本社を置くABBやドイツのシーメンスなど、従来は参入できなかった外国勢を入れれば半額程度にはなるだろう。いずれにせよ東西が電力を貸し借りできる体制を国を挙げて構築すべきだ。

長期的な展望として今後、原子力に頼らない世界を目指すなら、電力の35%を原子力で賄っている日本は「電力35%レス」を甘受しなければならない。2桁成長しているような新興国で35%削減は非常に厳しいが、日本は経済成長していないので比較的やりやすい。しかし、いかなる場合であっても、産業や福祉を破壊する「停電」だけは避けなくてはならない。

35%カットともなると、冷暖房の熱漏れを防ぐために家の構造から変える必要がある。住民投票で原子炉を否定した米カリフォルニア州のサクラメント市では、夜間にヘリコプターが飛んで、どの家からどれくらいの熱が洩れているかを赤外線写真で撮影している。熱漏れのひどい家に対しては改善勧告がなされて、自己負担で断熱材を貼るなり、窓枠を換えるなりしなければならない。住民全体のそうした取り組みによって、サクラメントでは脱原発を果たしたのである。いまではLED電灯への変換を加速する、などの施策も加味することができる。