日本電産社長 永守重信●1944年、京都府生まれ。73年日本電産を創業し、以後同社を世界的なモーター専業企業に育てあげた。「アメリカ、アジアは制覇したので、今は欧州だ。そしてインド、南米を制覇した後、最後はアフリカだが20年以降になる」。

世界同時不況といわれ、どの国のどの産業も等しく打撃を受けたのがリーマン・ショック後の経済だ。日本電産も例外ではなく、2009年3月期は黒字こそ確保したものの減収減益に見舞われた。だが、ここへきて、急回復する企業と落ち込んだままの企業とで優勝劣敗が明らかになってきた。さいわいにも日本電産は、殺到する需要をさばききれないほどの活況にある。

1年前に私は、不況前の売り上げを回復するには2~3年を要するとしたうえで、「そのときには、まったく違う景色が現れる。緑の山が紅葉に変わるのではなく、山だったところに海ができるような変化である」と指摘した。

完璧な予測だったとはいわないが、8割方は私の考えたとおりに運んでいる。山だったところに海ができたのだ。

たとえば、09年の国内新車販売台数のトップはハイブリッド車のトヨタ・プリウスだ。海外では安価な電気自動車の普及も始まっている。電池の性能向上や充電インフラの整備に時間がかかるとの見方から、従来は「電気自動車の普及はまだ先だ」といわれていたが、わずか1年で驚くばかりの変化が起きたのだ。

1年前には電気自動車メーカーは世界中に10社ほどしか見当たらなかった。それがいまでは、私が把握しているだけでも中国を中心に200社はある。実際の総数は300社にのぼるといわれている。そこへ毎月3~5社ずつ新顔が加わっていくのである。

増え方が急なのは、ガソリン車に比べて参入障壁が低いせいだ。ガソリン車をつくるには長年にわたるエンジン技術の蓄積が必要で、新規参入は難しかった。ところが、電気自動車の場合は、極論すれば部品を調達して組み立てるだけなので小資本でもやっていける。メーカーが次々にできているのは、そういう背景があるからだ