ガソリンから電気への「革命」が起きるとしたら、街中の充電スタンドなどインフラ整備が不可欠になるが、それには既設のインフラを置き換えるよりも最初から整備するほうがやりやすい。携帯電話がいちはやく普及したのも、有線電話が未発達だった中国などの新興国だ。自動車の革命も間違いなく同じメカニズムで進行するだろう。

以上のように、振れ幅の大きさにおいて、スピードの速さにおいて、空前の大変化が世界中を覆っている。では、変化を追い風にできるのは、どのような条件を持つものだろうか。

私なりに整理してみると、今後伸びていくのは、「省エネ」「エコ」「軽薄短小」「ハーフプライス」の4つのテーマのいずれかを満たすものである。

逆に、これらのテーマを裏返したものはどんどんすたれていく。つまりエネルギーをたくさん使う、地球環境に悪影響をもたらす、重厚長大型、値段の高いものは売れなくなる。別の言い方をすれば、「浪費」「無駄遣い」が徹底的に嫌われる世の中になってくる。

その中で日本電産には、たいへん明るい未来が待ち受けていると思う。4つのテーマすべてが背中を押してくれるフォローの風になるからだ。

近代産業の基礎となる重要な工業製品を「産業のコメ」と呼ぶことがある。かつてはそれが鉄であり半導体だったが、今後はモーターが産業のコメと呼ばれるようになるだろう。

具体的には、これまでの主役だったガソリンエンジンがすべてモーターに置き換わっていく。

まずは自動車だが、これだけで年間6兆から7兆円の市場が誕生する。私は一時、「NIDEC(日本電産)ブランドの電気自動車をつくる」と公言していたが、この計画は撤回したい。1兆円レベルの完成車メーカーをつくるより、全メーカーに車載モーターを供給するほうが大きなビジネスになるからだ。

自動車の次は鉄道、船舶、航空機へとモーターの用途は広がっていく。M&Aの手法を借りながらこれらの分野へ乗り出していけば、マーケットの巨大さからいって、私が掲げる「30年までにグループ売上高10兆円」という夢は、実現可能なものになるのである。

09年、日本電産は家電や自動車の技術者を中心に例年の3倍にあたる300人を中途採用した。新卒ではなく中途に力を入れるのは、即戦力が不足しているからである。他社が人減らしをしている時期だけに、採用側には非常にいいタイミングだと思っている。

新卒であれ中途であれ、採用時に重視するのは「世界中のどこへ行っても活躍できる人材か否か」ということだ。

※すべて雑誌掲載当時

(面澤淳市=構成 芳地博之=撮影)