そもそも電気自動車はモーターの塊である。日本電産にはすでに電気自動車メーカー100社から駆動用のモーターなどの引き合いがきている。1年前と比べたら驚くほどの変化である。思い起こすのは、戦後間もなくの日本でオートバイメーカーがわずかの期間に乱立したことがある。静岡県の浜松だけで30社あるといわれたが、そういった競争の中から、ホンダやスズキという世界的メーカーが登場したことを忘れてはならない。

この変化は明治維新のようでもある。西洋文明に触れた日本人は、和魂洋才といいつつ和服から洋服に着替え、履物も下駄から靴へ履き替えていった。それにともない、街では呉服屋さんや下駄屋さんがすたれ、洋服屋さんや靴屋さんが急速に伸びた。大きな変化は大きなビジネスチャンスを連れてくるのだ。

景色が変わったのは自動車業界だけではない。家電でも省エネや環境意識が急速に浸透し始めた。

私は1973年に日本電産を創業して以来、30数年にわたり省エネや製品の小型化に役立つブラシレスモーターの普及につとめてきた。とくに洗濯機や冷蔵庫、エアコンといった大型家電に組み込むと効果的だが、こちらから売り込みをかけても欧米の電機メーカーは聞く耳を持たなかった。ところが、省エネや環境意識の高まりから、彼らのほうから商談を持ちかけてくるようになったのだ。

30年分の変化がこの1年で起きたといっていいだろう。しかもブラシレスモーターに限らず、すべての分野でこのような変化が起きている。

日本電産はこのたびイタリアのソーレモータース社の買収を決めたが、ソーレはヨーロッパの家電向けでは最大手のメーカーだ。しかしソーレには工場と販路はあるがブラシレスモーターの技術がない。日本電産にはその技術、製品がある。双方にとって大変化への理想的な対応になったと思う。