アメリカの公衆衛生の専門家たちも「コロナ対策は不十分」

国務省は世界的な新型コロナの感染拡大を受け、4月から国民向けに出している「各国への渡航の安全度を示した情報」の見直し作業を進め、5月24日に最新版を発表した。

また、アメリカの公衆衛生の専門家グループからも警告の声が出ている。グループは五輪の新型コロナ対策が「不十分で改善が必要だ」との見解をまとめ、5月25日付のアメリカの医学誌「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に発表。IOCが感染対策に必要なルールをまとめた「プレーブック」について次のように指摘している。

「競技会場が屋外か屋内か考慮していないなど科学的に厳密なリスク評価がされていない」
「接触状況の追跡に選手が競技中には持たないスマートフォンのアプリを使う前提となっているのは問題だ」

拝金主義のIOCは中止を避けることに懸命で、具体的な感染対策まで頭が回らないのだろう。悲しいかな、日本政府はこのIOCにがんじがらめにされ、その結果、五輪中止に踏み切れないのだと思う。

オリンピックハウス、ローザンヌ、スイス
写真=iStock.com/Bogdan Lazar
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「中止の決断を首相に求める」との朝日社説が議論を呼ぶ

5月26日付の朝日新聞が「夏の東京五輪 中止の決断を首相に求める」との主見出しを付けた大きな1本社説を掲載し、冒頭部分でこう訴えている。

「この夏にその東京で五輪・パラリンピックを開くことが理にかなうとはとても思えない。人々の当然の疑問や懸念に向き合おうとせず、突き進む政府、都、五輪関係者らに対する不信と反発は広がるばかりだ」
「冷静に、客観的に周囲の状況を見極め、今夏の開催の中止を決断するよう菅首相に求める」

「理にかなわない」「疑問や懸念」「不信と反発」「中止の決断」という言葉はいずれも重い。オリンピック開催の是非についてここまではっきり主張する新聞社説は、これまでなく、大きな議論を呼んでいる。

朝日社説は指摘する。

「だが何より大切なのは、市民の生命であり、日々のくらしを支え、成り立たせる基盤を維持することだ。五輪によってそれが脅かされるような事態を招いてはならない」
「まず恐れるのは、言うまでもない、健康への脅威だ」
「この先、感染の拡大が落ち着く保証はなく、むしろ変異株の出現で警戒の度は強まっている」

沙鴎一歩は昨春、「開催できる」と判断していた。新型コロナの感染力がインフルエンザに比べてかなり弱く、空気の流れのある屋外ではウイルス自体も拡散し、「野外競技は問題ない」と考えていた。ところが今春の新型コロナは違う。明らかに感染力の強い変異株が出現し、感染対策が難しくなっている。五輪開催に反対という朝日社説には同意する。