なぜオウム真理教は凶悪な犯罪に手を染めるようになったのか。宗教学者の島田裕巳さんは「修行中に亡くなった信者の死を隠したことから、その事実を知る信者を殺害するようになった。どんな大きな組織もたった一つの嘘から壊れることがある」という――。

※本稿は、島田裕巳『宗教は嘘だらけ』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

力なく空中に手を上げる人々のグループ
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国家がつく嘘の代表「大本営発表」

国家がつく重大な嘘というものもある。

その代表が戦時中の大本営発表である。大本営とは、日本が戦争状態にあるときに設けられる天皇直属の日本軍の最高統帥機関だった。その大本営が戦況について国民に発表するのが大本営発表である。

現在では、大本営発表ということばは虚報と同じ意味で使われることが多いが、本来は国家が責任を持って行う重大な発表だった。

日本が戦争に勝っていた時期には、発表は事実を反映したものだった。ところが、戦況が悪化すると、発表に嘘が交じるようになっていく。敵国の損害を過大に述べ、日本側にはさも被害が少なかったかのように伝えたのだ。

嘘が交じるようになったはじめの段階では、国民もまだ発表を疑っていなかったかもしれない。だが、嘘にも限度があり、味方の損害がまったくなかったかのようには発表できなくなっていく。そうなると、国民はそこにかなりの嘘が交じっていることに気づくようになり、発表をそのままは受け取らなくなっていった。まして、本土が空襲されるようになれば、とても大本営発表を信じるわけにはいかない。日本人は大本営発表を鵜吞みにしていたわけではない。

今でも戦争に「嘘」はつきものだ

戦況が大幅に悪化すると、大本営発表も事実を伝えざるを得なくなる。総員戦死や玉砕といった表現での発表が続く。国民は、こうした変化の過程にずっと接していたわけで、敗戦を覚悟するようになっていった。

現代なら、嘘に満ちた大本営発表などあり得ない。軍の側が、戦況について軍事機密にしたとしても、さまざまな情報発信の方法が存在しており、情報は必ず漏れる。海外の報道機関の情報も、いくらでも入ってくる。国民は戦況がどうなっているか事実を知ることになる。

しかし、現代でもイラク戦争のような例もある。アメリカは、イラクが大量破壊兵器を保持しているとし、それで戦争に突入したが、それは発見されなかった。イラク側の死者は50万人にのぼると推計されている。今でも戦争には嘘がつきものなのである。

日本では、自衛隊は存在するものの、政治的な権力を発揮する軍は解体され、存在しない。憲法の制約もあり、自衛隊が戦争行為に及ぶことは考えられない。その点では、もう大本営発表はあり得ない。