「クリミア奪還」の動きに大軍で対抗

ロシアとウクライナの関係が、2014年のクリミア半島併合以来最も緊張している。今年1月のバイデン米政権誕生後、ウクライナのゼレンスキー大統領が「クリミア奪還」への支援を国際社会に呼び掛けるや、ロシアは国境地帯に10万人の大軍配置で威嚇した。国境地帯での戦火が憂慮されている。

ロシアのモスクワ郊外にあるノボオガリョボで、ポベダ(勝利)組織委員会の会議をビデオ会議で行うプーチン大統領=2021年5月20日
写真=SPUTNIK/時事通信フォト
ロシアのモスクワ郊外にあるノボオガリョボで、ポベダ(勝利)組織委員会の会議をビデオ会議で行うプーチン大統領=2021年5月20日

そんな中、6月16日にスイスのジュネーブで行われる米露首脳会談に注目が集まっている。ここでの話し合いが決裂した場合、ロシアの不気味な挑発行動も予想されるからだ。ロシアは新たな標的として、クリミアに隣接するウクライナ南東部のヘルソン州を狙っているとの情報もある。

ウクライナ東部のドネツク、ルガンスク両州の親露派勢力が2014年に独立を宣言して始まった内戦は、これまでに民間人を含め1万4000人の犠牲者を出したが、ここ数年は小康状態だった。バイデン政権の誕生と、コメディアン出身のゼレンスキー大統領の支持率低下が、ウクライナ政府の強硬路線の触媒となった可能性がある。

バイデン大統領は副大統領時代、ウクライナを6回訪問し、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟を支持した後ろ盾だ。

そのバイデン大統領は4月初め、ゼレンスキー大統領との電話会談で、「ロシアの侵略に直面するウクライナを強く支持する」と強調。新たな武器援助や経済支援を約束した。5月にはブリンケン国務長官がキエフを訪問し、ウクライナの領土保全、主権を擁護した。

一方、ロシアの全面支援を受ける東部の親露派は、今年に入って武力挑発を強化しており、双方の戦闘が再燃、犠牲者も増加していた。

「殺し屋」呼ばわりにプーチン氏の報復は…

バイデン大統領が3月中旬のテレビ会見で、プーチン大統領を「殺し屋」呼ばわりすると、ロシアはクリミアと東部国境地域に兵力を増強し、大規模な軍事演習を実施。メルケル独首相は「かつてなく緊張が高まっている」と警告した。

米側がロシアを牽制するため、海軍艦船2隻の黒海派遣を発表したのに対して、ロシアは即座に反応し、カスピ海艦隊の15隻を、両海を結ぶ運河経由で黒海に投入。米側は、慌てて艦船派遣計画を停止した。

緊張拡大の中で、バイデン大統領は4月中旬、プーチン大統領に電話し、欧州の第三国で首脳会談を行うよう提案した。ロシア側はこれを評価し、ウクライナとの国境に駐留する部隊の撤収を発表したが、今なお推定8万人の部隊が国境付近に展開している模様だ。

ジュネーブでの両首脳の初会談は、今後の米露戦略関係を占う重要な会談となり、ウクライナ情勢にも大きな影響を与えそうだ。