警察が指名手配書を持って歩いていても無駄

——実際にそういう話はあるんですね。普段から聞く世界ですか?

「ええまあ。指名手配の隠れ場所ですからね、未だにあいつはここに隠れているのかと思われる人間仰山いますよ」

——市橋達也受刑者などそうでしたね。まだ指名手配犯などいますか?

「顔とかいじったらわからんしね。体型と髪形変えたりしたら近い人間でもホンマに分からへんわ」

——警察から指名手配犯がいるか捜査協力してくれと頼まれたことはないですか?

「それはないね、言われたとしても分からへん言うやろうな。街の仲間のことは言いたくないしな」

筆者は過去に西成へ取材で訪れた際、“人が何をやってもそれには構うな”と色々な人間に注意されたことがある。

つまり誰が何をやっても無関心でいろ、という意味であろう。さすがに目の前で人が殺されかけていたり、殺されていたら通報するだろうが、幸いにもそのような物騒な場面には未だに出くわしていないのはラッキーなのであろうか。

——それでは西成という街は、まだ犯罪者が潜伏できる街ですか。

「十分潜伏はできる街やろ。いくら警察が指名手配書を持って歩いていても無駄やな。たとえ隣にその顔の奴が住んどってもぼくは無視しますね。関わり合いたくないし。人を売りたくないから。

あ、思い出したわ。事件といえば、前にこんな事件がぼくの周りでは過去にあったわ。素泊まりできるドヤの一室に切り刻んだ死体を置いとったことはあった。それは何でわかったかというと、長期でそのドヤを借りとったんやけど本人が帰ってくる様子がなかったんや。家主がおかしいと思って警察に行ったらわかった。犯人は捕まったと思うで。それもよう知らんけどな」

人情の街大阪と言えども、この街の風景は一風変わっている。

隣の人をあえて無関心にするのは、過去を詮索しない、してはいけないというこの街独特のルールがあるからではないだろうか。

西成には「数え切れないほど」の人夫出しがいる

——これからも人夫出しを続けていこうと思いますか。身体障害者手帳の1級を持っているとおっしゃっていましたが、障害年金は月いくらもらえるんでしょう。

「3万円かな。それに皆さんのご厚意で人夫出しをして多少儲けさせてもらっているので、生活費は十分ですわ。別に遊ぶこともあらへんし。ギャンブルはやらんしね」

——いまどれくらい人夫出しの業者はいますか?

「朝方歩いとったら分かるやろうけど、数え切れないほどおるわ。それほどこの西成の人間は使いやすいんやろうな。人がいなくなったらすぐに代わりはおるからな」

——いまコロナで仕事は少ないですか?

「人は余っているでしょうね。いま大きい飯場が仰山あるけど、その半分は休ませとる状態やからね。半分休ませたら、次の日は前日に行かなかった人間を送り出す感じやな、今は」