「公的医療保険ではたいした治療は受けられない」「民間の医療保険に入っていないと、いざというときの医療費が賄えない」
民間の生命保険会社のテレビコマーシャルの影響もあってか、このように考える人が増えているようだ。たしかに病気になったときの医療費の負担は不安なものだが、民間の医療保険に入れば問題がすべて解決すると思うのは幻想だ。
日本では、健康保険が使える「保険診療」と保険が適用されていない「自由診療」を同時に行う混合診療は原則的に禁止されている。ただし、2006年に施行された医療制度改革で例外が設けられ、保険適用前でも厚生労働大臣が認めた「評価療養」と「選定療養」については、保険診療との併用が認められるようになった。これが「保険外併用療養費」だ。「先進医療」はこのうちの評価療養にあたり、将来的な保険適用を前提に、その評価を行っている段階の医薬品や医療機器などを使う治療である。
費用については、保険診療部分(診察、検査、投薬、入院料など)は通常どおり3割負担(3歳以上70歳未満)でよく、後述する高額療養費の対象にもなる。とはいえ、先進医療の技術料部分は全額自己負担(図1)。なかには重粒子線治療の約302万円、陽子線治療の約276万円、腫瘍脊椎骨全摘術の約202万円のように高額なものもある。
こうした負担に目をつけ、保険会社各社が競うように販売を始めたのが先進医療特約付きの医療保険だ。販促のための派手なコマーシャルのせいか、「先進医療はお金がかかる」「先進医療は最先端の優れた治療」といったイメージが定着しつつあるようだが、そこには大きな誤解がある。
先進医療特約は、厚生労働省が定めた先進医療を受けた場合に保障を受けられるもので、かかった医療費に応じて最高1000万円などが給付されるというもの。保険適用外の治療が何でも保障されるわけではない。とはいえ、保険料は各社ともに特約分は月額100円前後なので、これで数百万円の医療費をカバーできるのであれば、加入してもよいと考える人もいるだろう。しかし、ここで考えたいのは先進医療を受ける確率である。
08年7月~09年6月までの1年間に先進医療を受けたのは全国で2万13人。このうちの1万1394人は乳がんのリンパ節転移を確認するためのセンチネルリンパ節生検という検査で、普及度が高いことから10年4月に保険診療が認められている。
10年11月1日現在、厚生労働省が認めた先進医療の技術は119種類あるが、治療できる医療機関は厚生労働省が決めており、ひとつの医療技術に対して、全国でひとつの医療機関にしか認められていない治療もある。先進医療を受ける確率は、非常に低いといえる。
そもそも生命保険は入院や手術などの保険事故が起こる頻度や被保険者の年齢などから保険料を決めており、保険料が安いということは先進医療を受ける確率が低いことの表れでもある。