民間の医療保険に加入しておけば、病気になったときの医療費はすべてカバーできるのだろうか。

民間の医療保険に加入する目的は、病気やケガで入院、手術、通院などをしたときに給付金を受け取ることだ。賢明な読者は「何を当たり前のことを」と思うかもしれない。しかし、保険に入ったことで安心してしまい、どんな状態になったら給付金を受け取れるのかという「支払事由」を確認していない人が案外多い。

契約者全員の公平をはかるために、民間の保険は支払いに細かい規定がある。入院は「常時、医師の管理下において病気やケガの治療に専念している」状態をいい、人間ドックでの入院や治療を伴わない入院は給付の対象にならない。

手術においても同様で、原則的に給付金支払いの対象になるのは約款に書かれた88種類。たとえば、虫垂炎切除術は対象になるが、扁桃腺の摘出術は対象外。腕や足の切断術は対象だが、手足の指は対象外などと細かい決まりがある。最近は公的医療保険対象の手術を保障するタイプがあるが、たとえ公的保険の対象でも保障されない手術もあるので注意が必要だ。

通院給付金の支払いにも「所定の入院の後の」という条件があり、たんに風邪をひいて通院したような場合は対象にならない。給付金を支払うかどうかを決めるのは保険会社だ。民間の医療保険の給付範囲は限定的だということを覚えておこう。

所定の入院をしたとしても、平均在院日数は短縮傾向だ。1975年に55.8日だった平均在院日数(全年齢の総数)は、08年には35.6日になっている。医療費削減の一環として入院日数の短縮が目標とされ、現在もその方針は踏襲されているため、今後も平均在院日数が短くなることは予想される。

最近は、がんですら入院せずに通院で抗がん剤治療をしたり、自宅で薬を飲むだけといったケースも増えている。民間の医療保険は入院しなければ給付金が出ないのが一般的なので、このような場合は給付金を受け取ることはできない。その一方で、保険料は確実に消費していくわけだから、逆に保険に加入することが使えるお金を減らしてしまう。

民間の医療保険には限界がある。こうしたリスクを理解したうえで、支払う保険料ともらえる給付金を比較し、コストをかけてまで加入する意味があるのかをよく考える必要があるだろう。

たとえば、入院給付金が日額1万円で、一入院あたりの支払限度日数が60日型の医療保険の場合は、もらえる入院給付金は最大でも60万円。これに手術給付金の最高額40万円を加えると100万円だ。つまり、医療費に使える貯蓄が100万円程度あれば、あえて民間の医療保険に加入する必要はなくなる。貯蓄があれば、入院や手術のほか、通院など理由を問わずに何にでも使えるので、貯蓄を増やすことで対応することも考えてみよう。