かつて国内工場を全面閉鎖した企業は「流れ」を読み間違えた

【藤本】とはいえ、生産拠点を国際展開している日本の多くのグローバル企業は、国内に加え、中国やASEAN(東南アジア諸国連合)などを含むアジアのサプライチェーンを既に持っているのが一般的です。その日本、中国、ASEANの「三角形」のバランスは、災害危機対応というよりはむしろ、競争力対応という見地から、見直しが必要なケースも増えていると思います。

——どのように見直せばいいのでしょうか。

【藤本】長期的視点が必要なので、日本のグルーバル・サプライチェーンを歴史的に振り返ります。

多くの日本製造企業、特にデジタル化、モジュラー化により「設計の比較優位」を失った家電エレクトロニクス系の企業は、1990年代に圧倒的な低賃金と労働力動員力で世界の工場となった中国において生産拠点を急増させました。

この時、日本の国内マザー工場を閉鎖し、中国など低賃金国に生産拠点を全面的に移した企業もありました。しかし、短期的な原価計算だけで国内工場を全面閉鎖してしまった企業の本社は、いずれ中国の賃金も上昇に転じるという国際経済の大きな流れをちゃんと読めていなかったようです。

中国拠点の縮小はないが、ASEAN拠点の拡大はあり得る

そのような企業は、海外拠点の生産性向上を支援する国内マザー工場がもはや無いため、中国が賃金高騰の時代に入ると、中国拠点自体がコスト的に厳しくなり、低賃金を求めてベトナムやインドネシアなどさらに低賃金の国へ標準品の量産拠点を移すしかありませんでした。生産性向上の組織能力が乏しく、低賃金頼みのグローバル・サプライチェーンは、競争力的にだんだん行き詰まってきます。これに気が付き、国内のマザー工場を再構築して「三角形」のバランスを回復させた日本企業も実際に存在します。

フランス・ヴァレンシエンヌの車の生産ライン
写真=iStock.com/Tramino
※写真はイメージです

このように、2005年ごろから中国の賃金が高騰し始め、中国工場のコスト競争力は低下し始めました。しかしいったん中国につくった多数の工場は、中国政府との関係もあり、中国工場自体の頑張りもあり、あるいは簡単には撤退しない日本企業の方針もあり、多くが存続しています。

さらに、中国の市場自体が巨大化してくれば、かつての米国拠点のように、現地市場向け工場としての意味も出てきます。ですから、中国拠点の撤収は、多くの日本企業は考えていないと思います。

とはいえ、1990年代に中国に大挙進出した歴史を踏まえて考えるなら、グローバルな全体最適経営の観点からは、日本企業の中国生産の比率がやや過大となっている可能性はあります。中国拠点を縮小する必要はないかもしれませんが、ASEAN等の非中国拠点をより速く拡大させるという判断はあるかもしれません。