2010年5月11日(火)

なぜ3000円の男用パンツが86万枚も売れたか

PRESIDENT 2009年8月31日号

著者
野口 智雄 のぐち・ともお
早稲田大学社会科学総合学術院教授

1956年、東京都生まれ。一橋大学大学院博士後期課程単位修得後、横浜市立大学助教授を経て94年から現職。2006年から08年まで、客員研究員としてスタンフォード大学経済学部で活躍。88年、『現代小売流通の諸側面』で日本商業学会賞を受賞。『水平思考で市場をつくるマトリックス・マーケティング』『なぜ企業はマーケティング戦略を誤るのか』など多数の著書がある。

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早稲田大学社会科学総合学術院教授 野口智雄=文
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男性下着という参入障壁の高い市場で年間86万枚のヒットを記録し、そして狙い通り、購買スタイルまで大きく変えた。メンズインナーでは後発だったワコールが、なぜその快挙を成し遂げられたのか。

後発メーカーが参入障壁の高い分野で成功できた理由

ヒット商品を生み出すために一種の「タブー」に挑戦するという方法がある。タブーとは「禁忌」と訳されるように、何らかの規範によって禁止されていたり、表立って触れにくい事柄のことだ。もちろん法律に抵触したり、あまりにも道徳的配慮に欠けるような場合は論外だが、古臭い価値観にとらわれて逃していたチャンスにあえてチャレンジすることで巨大なフロンティア・マーケットが拓ける可能性は決して低くない。この種の市場には、もともとライバルがいないうえに、表面化しにくい「サイレント・ニーズ」が沈潜している場合が多いからだ。

今回は、技術力に裏打ちされたイノベイティブな商品の開発により、買い物のし方にかかわる伝統的なタブーを打ち破ったワコールの機能性下着「クロスウォーカー」を紹介してみたい。この商品は、「男性が自ら下着を買いにいく」というこれまでにはほとんど見られなかった購買スタイルを創造することで、大ヒットを記録した。

まず商品の説明をしよう。クロスウォーカーとは、穿いて日常の生活をしているだけで自然とシェイプアップができてしまうという非常に便利なパンツである。

この商品の原理はこうだ。ボクサースタイルのこのパンツは、ちょうど太もも前側が当たるところに独自のクロス構造が仕掛けてある。これが筋腹付近の感覚センサーを刺激すると、大腿四頭筋の活動を活発にさせ、自然と歩幅が広くなる。これにより、後ろ足の蹴る力も強くなり、大腿二頭筋の動きも活発になる。これらの結果として穿いて歩くだけで自然にエクササイズになり、お腹やヒップが引き締まってくるのである。

ワコールは、このような「優れモノ」を2008年3月17日に発売し、わずか1年間で86万枚もの販売実績を記録した。これは近年、2700億円前後で低迷を続けている日本のメンズインナー市場において、一ブランドでシェア十数%を稼ぎ出した驚異の数字なのである。この分野ではまさに革命的な大ヒット商品の誕生といえる。

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