男性消費者にパンツを「本人購買」させる

細川氏自身、この業界に入って驚いたのが、いわゆるナショナルブランドが存在しないという事実だった。代理購買を主とする特異なマーケットでは、最低限の品質と低価格だけが求められる。消費者の気を引くための気の利いたネーミングや美しいロゴ、マークなどはまったく必要とされなかったのだ。

このような特異なマーケットでサバイバルしていくためには、ライバル追随型ではだめで、独自のビジネスを行うしかない。そのための手段として目をつけたのが「本人購買」という新しい購買スタイルだった。これは自分の身に着けるものは他人にまかせず、自分で購買するようにし向ける戦略的コンセプトである。

この原点には、ワコールが長年培ってきた女性インナーという組織風土がある。女性は心理状態、TPOに合わせて下着を着け替える。一方で男性は年がら年中、朝から晩まで同じものを着けていて、下着に対する期待感、楽しみや満足感がないと思われてきた。しかしそれはあくまで神話の世界であり、実際にはそんなことはないだろうと考えたのだ。細川氏はほとばしるような勢いで次のように語った。

「絶対に本人が買うのが普通だろうと。自分のものを自分が買わないというのは、おかしいじゃないかと。奥さんとかお母さんの買ってきたものを、唯々諾々と穿いてるなんていうのはおかしいんじゃないか。そういう視点をもてたのは、ワコールがレディース下着のメーカーだったことが大きいです」

そして、98年にメンズインナー・ビジネスに大幅なリニューアルを行い、「男にも下着を着替えさせる」ということで、ライフスタイル提案型のメンズインナーという御旗を掲げることになったのだ。

だが実際、男性消費者に本人購買をさせるためにはそれなりの誘因が必要だ。やはり「あなた、カッコ良くなれるんですよ」とか、「こういった下着を穿くことによって、満足が得られるんですよ」といったような実利的なアプローチをしていかないと、購買行動には結びつかない。

そこで、注目したのがレディースで成功していた、歩きをエクササイズに変えるスタイルサイエンス商品だった。

なにもシェイプアップは女性だけの専売特許ではない。男性もファッショナブルになり、体形や体脂肪を気にするようになってきている。そして、「クールビズ(COOL BIZ)」や「カジュアル・フライデー」などのブームに乗って、女性が毎日服を着替えるように、ビジネスマンもアウターに気を使わなければならなくなり、それにあわせてインナーにも気を配るようになってきた。