まっ暗闇は眠った感覚器の「覚醒装置」だった――。今回プレジデント誌は2つの体験をした。ひとつはお笑い・演劇集団の大川興業が8年前から本格的に手がける「暗闇演劇」。暗闇の中、音と気配だけで観賞する芝居が大人気だという。観客の頼りは役者の台詞と息遣いのみ。物語は、若者が地下深い廃坑をさまよい、悩みを解決するというものだった。演出の大川豊氏は語る。

「お客さんには、スーツ姿の官僚や会社員も多いです。『視覚に頼らない、もっと手触りや匂いを生かした商品をつくりたい』と観賞後に話す起業家もいました。皆さん、耳、鼻、肌で芝居を観て脳裏に自ら映像をつくります。夜行性動物のように感覚器が鋭敏になり、発想力も豊かになるようです」

以前の公演では、暗い舞台上で煎れたコーヒーの匂いに号泣した女性もいた。元彼氏が好きな香りだったらしい。

クラヤミ食堂のメソッドを企業向けにアレンジし、部署や肩書を超えた社員交流にするサービスも。
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2つめは、博報堂が3年前から年数回開く「クラヤミ食堂」。アイマスクをしての集団食事会である。20代後半~30代の女性に特に人気の企画で、これまでに3300人以上が体験した。

料理を見ずに触感や香りから想像しながら味わうのは、何とも官能的。面白かったのは同じテーブルの見知らぬ者同士が活発にコミュニケーションすること。「お皿、円いよね」「お、スペアリブだ、ハーブのいい香り」「ザワークラフトも(皿の)右端にある」。皆で情報を交換して共有する。共に支え合いサバイバルする感覚だ。あのチリ鉱山落盤の労働者たちが一致団結したというのも少し理解できる気がした。

「ある50代の男性は食事後『みんなと別れたくない。一期一会の意味が初めてわかった』とわんわん泣きながら、暗闇の中で固く握手をしていました」と同社「こどもごころ製作所」所長・軽部拓氏。2時間の暗闇体験は思いがけない人生の宝物を与えてくれるのか。