トヨタの人事部長の「今日も頑張って」

ミンツバーグは“常識”が発動される日本の組織を高く評価している。

「世界をまわるビジネススクール」をかつて主宰し、各国の経営者候補を集めて勉強会を行っていたミンツバーグは、“ITはインドに”“経済発展は中国に”、そして“組織は日本に”学べと強調していた。

トヨタの米ケンタッキー州工場。ラインで働く労働者と気さくに話すコンビス社長(2001年当時)。

トヨタの米ケンタッキー州工場。ラインで働く労働者と気さくに話すコンビス社長(2001年当時)。

トヨタ人事部の人物からこんな話を聞いたことがある。人事部門の部長クラスは会社が大変なときには、操業30分前に工場に行き、正門に立って働いている工員を出迎えることだというのだ。「ご苦労さん、今日も頑張って」「おはよう」などと声をかけ、感謝を表す。

人事部長といえば多くの企業で常務クラスの重役だ。そんな高い地位の人間がわざわざ毎朝出迎えてくれる。多くの従業員にとってはこれ以上自尊心をくすぐられるものはない。仕事へのモチベーションが上がるばかりか、トヨタという企業への愛着心につながっていくのも当然であろう。

経営側にとってもこういったプロセスで形成される愛着心は強い武器になる。何らかの形での“変革”を求められたとき、たとえば工場閉鎖などに伴う人事異動という局面でも、従業員は要求された変革をよりスムーズに受け入れることができるのではないか。

この人事部長の話は一例にすぎない。働く人の持つ人間としての感情や意識を大切にするごく自然な視線で、人事および経営をしていく。数字には表れにくい、この“常識”の積み重ねこそが世界のトヨタの強さにつながっているのだろう。

こうした考え方は、従来は多くの日本企業にも浸透していたものである。だからこそミンツバーグも“組織は日本に学べ”と強調していたといえる。