前線を仕切る知事という立場に前のめりになっていた

小池氏は3月25日ごろから、コロナ対応に全力を挙げる姿勢を強調してきた。前日の24日、東京五輪・パラリンピックの1年延期が決まったことで、この問題に集中し、政治的プレゼンスを高めようとしたのだ。このあたりは3月28日公開の記事「この状況で安倍首相と『グータッチ』をする小池都知事の危機意識」を参照いただきたい。

いずれにしても、初の緊急事態の前線を仕切る知事という立場に前のめりになっていた小池氏。待ちに待った宣言を受けた7日の会見は、あまりにも不自然で、あまりにも歯切れが悪かった。

予兆はあった。6日に明らかになった都の案では、理髪店や美容院、ホームセンターも休業要請するリストに入っていた。ところが7日昼、衆院議院運営委員会で西村康稔経済再生担当相は、理美容やホームセンターは「安定的な生活を営む上で必要だ」などとして休業を求めない考えを明らかにした。国と都で齟齬そごが明らかになったのだ。

都民の命を最優先で考えれば、当然のことではあるが…

どちらに問題があるのかは、今後の検証が必要だ。恐らく双方に誤解と調整不足があったのだろう。

政府は宣言を発令した7日、従来の対処方針を改正。施設の使用制限を要請する場合は、自治体と国が協議して、外出自粛の効果を見極めた上で実施する、という内容に変えている。そして政府は、外出自粛の効果を見極める期間について「2週間」を念頭に置いている。

そのような重大な変更について国と都が十分に意思統一できていなかったことは心もとない限り。都など自治体との調整にあたっている西村氏は、政策立案能力は定評があるが、根回しなどの泥臭い仕事は不得手だ。小池氏1人を悪者にするわけにはいかない。ただし、宣言前にいち早く案の内容を公表してしまったことから考えて、小池氏の意向を受けた都側の勇み足があったことは間違いないところだろう。

東京以外で緊急事態の対象となった6府県は、現段階では宣言に基づく休業要請は民間施設には行わない方針。神奈川県の黒岩祐治知事は8日、記者会見で「(都と)足並みがそろわない現状が浮き彫りになった。大変悩ましい」と語り、西村氏に調整を委ねる考えを語った。隣接する都の小池氏の突出ぶりへの苦悩がうかがえる。

それにしても、このような齟齬は、なぜ起きたのだろう。

まず、それぞれの立場の違いがある。都としては手遅れにならないように一刻も早く、しかも広く投網をかける形で制限をかけたい。都民の命を最優先で考えれば、この方針にたどりつくのは当然のことではある。