日本人のネット利用はもっぱら閲覧

日本におけるソーシャルメディアの利用が閲覧に偏っているのだとすると、ネット空間上で飛び交う情報は、少数の人が発信したものということになり、全体像を示していない可能性が出てきます。ネット空間上の情報や言論に偏りがあるという話は、多くの利用者が気付いていることだと思いますが、この調査結果はそれを裏付ける材料のひとつといってよいでしょう。

日本の場合、発信する人が少数ということに加え、ネット上の情報の多くが、すでに存在している情報のコピーであるケースも多く、同じ情報が拡散されることでさらに偏りが生じている可能性が否定できません。

情報に偏りがあり、その情報源が独立していない場合、いわゆる「集合知」が成立しないというリスクが生じてきます。集合知というのは、簡単にいってしまうと「みんなの意見は正しい」という考え方です。

グーグルなどが提供している検索エンジンのアルゴリズムには、集合知の考え方が応用されています。集合知が正しいことの事例としてよく引き合いに出されるのが、1986年に起きたスペースシャトル「チャレンジャー号」の事故です。

事故直後、まだ原因もよく分からない段階から、ガス漏れを起こしたリングを製造している会社の株だけが下落していました。正式な調査結果が出るよりもはるか以前に、市場は原因を完璧に特定していたのです。

本来、みんなの意見は正しい

グーグルの検索エンジンはこの考え方を応用し、多くの人がアクセスするサイトは有用であると判断し、これによって検索結果を順位付けするという仕組みを開発しました(それだけで判断しているわけではありませんが、アクセス数やリンクが大きなファクターであることは間違いありません)。

ネット上の集合知をうまく活用できると、正しい見解に辿たどり着くまでの時間を劇的に短縮できますから、経済に対する効果は絶大です。

今までの時代は、何か新しいプロジェクトに取り組む際には、専門家や経験者に話を聞いたり、多数の本の中から該当するものを探すなど、相当な手間をかけて情報収集する必要がありました。ネットで集合知が形成されていれば、それを見れば一発でおおよその判断が可能です。一連の調査にかかる手間を一気に省けるわけですから、効率は何倍、あるいは何十倍にもなるわけです。

しかしながら、「みんなの意見は正しい」という命題が成立するためには、①意見の多様性、②意見の独立性、③意見の分散性、④意見の集約性、という4つの条件を満たしている必要があります。

つまり、多様な価値観を持った人が集まり、皆が他人に左右されず、独自の情報源を使って自分の考えを表明した結果を集約すれば、必然的に正しい答えが得られるという理屈です。

その点からすると、日本のネット空間は、発信者の数が少なく、情報に偏りがあるため、情報の信頼性が低下してしまうことになります。