男子御三家、女子御三家の中で唯一高校入試を実施する「開成」

このように昨今は「完全中高一貫化」が進行している。

中学入学当初から多くの生徒を受け入れたほうが経営的に安定するのかもしれない。あるいは、完全中高一貫したほうがその学校の指導カリキュラムが進めやすくなるのかもしれない。

ちょっと面白いのは、こうした時流の中で、あの天下の開成は今も高校受験を実施していることだ。中学受験の「男子御三家」の麻布・武蔵・開成、「女子御三家」の桜蔭・女子学院・雙葉の6校を見てみると、開成を除く5校は高校入試を実施していない。

開成は東京大学合格者数ナンバーワンを誇る進学校の頂点に輝く学校だ。1982年以来、実に38年にわたってナンバーワンの座に君臨するというのだからすごい。なお、2019年度の東大合格者数は186人(過年度生を含む)。開成の中学募集定員は300人、高校募集定員は100人である。

なぜ、開成は高校入試をいまでもおこなっているのだろうか。

開成の「旧高」と「新高」とは何か

開成では中学入学組を「旧高」、高校入学組を「新高」と呼んでいる。

中学校は7クラス体制で1クラスの人数はおおよそ43~44人、高校になると8クラス体制になるが、そのときは1クラス50~51人程度になるという。ただし、高校1年生のときは「新高」のみで占められるクラスが2つある一方、「旧高」のためのクラスが6つ設けられていて、授業で互いの接点はあまりないという。

高校から入ってきた「新高」はすでに3年間開成で過ごしている「旧高」に対して、やりづらさはなかったのだろうか。「新高」だった30代の卒業生は当初は心細かったと打ち明ける。

矢野耕平『男子御三家 麻布・開成・武蔵の真実』(文春新書)

「高校から開成に入って、最初は旧高となかなか打ち解けられないなあという気持ちを少しだけ持ちました。これが中学からの人と同じクラスで高1からスタートするのであればだいぶちがったのでしょうが。そもそも中学からずっといる人たちのコミュニティに入っていく場所ってあんまり多くないのです。わたしは辛うじて部活動がありましたが、部活動や委員会をやらない新高の人間からすると、すでにでき上がったコミュニティに一年間接する機会がないわけですから、どんどん疎外感を抱いていく……という側面があったのかもしれません」

ただ、高2になると「旧高」と「新高」の溝のようなものもなくなる。開成名物の運動会があるからだ。

「高2から中学受験で入った人、高校受験で入った人が混じります。そして、クラスの結束を強める機能を果たしたのが運動会でした。高2の5月から高3の5月にかけてはクラスでまとまってみんなで運動会に向けて準備しますから。そこで互いの距離が一気に縮まるのです」(同上)