コンプライアンスは「法令を守ること」だけではない

欧米と日本の「経営者に求められる資質」の違いは、情報公開に対する意識の違いと解釈することもできます。

情報公開が不十分な社会では、「露見しなければ大丈夫」といった負のインセンティブが企業全体にまん延しやすくなります。その結果、正直さが重要だとはみなされなくなります。

グローバル化が進んでいる北米や欧州では、情報公開が常識です。経営者は正直でなければすぐに整合性がとれなくなり、答えに窮して信頼を失います。

コンプライアンスとは、一般的に法令遵守と訳されることが多いのですが、「法令を守ればよい」「法律に抵触さえしなければそれでOK」という意味ではありません。

事業活動のすべてがオープンになったとき、何一つ恥じることがないこと。こっそり何かをやったりせず、隠しごとをせず、偽らず、逃げず、堂々と申し開きができることがコンプライアンスの本質だと僕は考えています。

初めて部下を持ったときに読んだ『貞観政要』

僕がはじめて複数の部下を持った30歳前後のとき、『貞観政要 上 新釈漢文大系』(原田種成・著 明治書院/下巻は翌年に刊行)が刊行されたので、早速読んでみました。

貞観政要』は、唐の第2代皇帝、太宗・李世民の言行録です。太宗と臣下(部下)の政治上の議論や問答が、全10巻40篇の中にまとめられています。

「貞観」とは、当時の元号(年号/西暦627~649年)のこと。貞観の時代は、中国史上、もっとも国内が治まった時代(盛世/長い中国の歴史の中でもわずか4回を数えるのみです)のひとつといわれています。

「政要」とは、政治の要諦のことですから、『貞観政要』は、貞観時代の政治のポイントをまとめた書物であり、その中には、平和な時代を築いたリーダーと、そのフォロワーたちの姿勢が明快に示されているのです。

管理者になりたての僕は、『貞観政要』に記された太宗と臣下たちの問答の中から、リーダーや組織がどうあるべきかを学びました。

貞観3年、太宗は臣下の房玄齢ぼうげんれいに次のように語っています。

「古人の中で、国を良い方向に治めた者は、必ずまず自分自身を修めている。その身を修めるには、謙虚さを持って学ばなければならない。正しく学ぶことができれば、その身も正しくなる。その身が正しくなれば、君主があれこれと命令しなくとも自然と物事はうまく運ぶ」
(巻第一 政体第二 第十九章)