一方で、キリンとニュアンスがやや違ったのは、ガスが抜けることへの捉え方だった。松橋氏の見方はこうだ。

「もともとは同じ炭酸ガス圧ですが、ビンや缶はグラスに注いだときに炭酸ガスが泡となるため中味液からは若干抜けてしまう。一方、樽の場合、静かに注いで泡立たせず、泡は泡でサーバーから出すため、中味液の炭酸ガス圧は高いままです。泡と刺激感を楽しみたいなら、樽生はおすすめですね」(松橋氏)

松橋裕介・アサヒビールマーケティング本部ビールマーケティング部次長

キリンのフラッグシップブランドは王道的おいしさの「一番搾り」で、アサヒは辛口が特長でキレがある「スーパードライ」。ブランドの持ち味に合わせて容器を選ぶのも一興だろう。

家庭でほぼ飲まれなくなったビンが復権?

樽、ビン、缶。おいしさは一長一短でどれも捨てがたいが、市場での勢いには明確な差がある。ビンの凋落ちょうらくだ。

バブルの最中だった1987年、全ビールの容器別売上比率は、ビンが70.2%、缶が22.4%、樽が7.4%と、ビンがダントツだった。しかし、1995年にビン42.5%、缶が45.3%と逆転した。背景にあるのは、コンビニやスーパーの出店増と酒類小売規制の緩和だ。かつてビールは酒屋が各家庭に配達するものだったが、コンビニやスーパーで自分で買って帰るものへとシフトして、持ち運びやすい缶が台頭した。

飲食店でも、ビンは樽に取って代わられつつある。樽がビンを逆転したのは2005年(ビン27.0%、樽29.4%)。直近の2017年は缶48.3%、樽35.6%に対してビン16.1%と、凋落傾向は明らかだ(※)

※アサヒビール社調べ

このままビンは消えゆく運命か——。そう思いきや、実は最近、ビンが復権する動きが現れ始めた。アサヒビールは、2019年3月から「あえてのビン」キャンペーンをテスト展開。導入店舗で売り上げが前年同月比140%と伸びたため、6月から全国展開を始めた。キャンペーンの背景を松橋氏はこう明かす。

「若い消費者がお酒に求めるものが変わりつつあります。昔はお酒を飲んで酔うことも大きなニーズでしたが、いまの若い世代はお酒を飲み過ぎることをカッコ悪いと考える。現在は、相手とコミュニケーションしたり、本音を語りあって理解し合う時のツールとお酒を位置づけています。その変化を踏まえて、『飲みたい ていうか、話したい』というコピーをつけ、"さしつ、さされつ"ができるビンビールの良さをアピールしました」

もう一つの背景として、サービス業の人手不足も見逃せない。

「樽はメンテナンスが必要で、注いで出すときにも手間がかかります。一方、ビンは冷やして栓を抜けば提供できます。オペレーション改善になるので、飲食店さまに喜ばれています」(松橋氏)

人口減で、飲食業界の人手不足は慢性化している。今後もこの傾向が続けば、ビンがふたたび勢いを取り戻す日は遠くないかもしれない。