妻子ある男性社員が女性社員と男女の仲に。本人たちはバレていないつもりだが、まわりは気づいており、苦情の声もあがっている――。

残念ながら、この手の話は、どの会社にも一つや二つ転がっている。不倫は配偶者に対する不法行為であり、社会的に非難されても仕方のない行為だ。倫理的問題を置いておくとしても、まわりの社員は働きづらく、会社にとっては迷惑千万だ。はたして不倫を理由に社員を懲戒解雇することは可能なのか。労務問題に詳しい横張清威弁護士は次のように解説する。

「不倫であろうとなかろうと、恋愛は原則的に私生活上の行為であり、会社の業務と直接の関係がありません。不倫によって職場に気まずい空気が漂っていたとしても、それだけで懲戒処分を下すのは無理。企業秩序が乱れ、企業運営に具体的な支障があった場合に限って、不倫は懲戒の理由になるという判例があります(繁機工設事件・旭川地裁、1989年12月27日)」

しかし、過去には不倫による懲戒解雇が認められたケースもある。観光バスの妻子ある運転手がバスガイドの女性と交際して妊娠させた事案では、業務の正常な運営を阻害したとして運転手の解雇を有効とした(長野電鉄事件・長野地裁、70年3月24日)。いったいどの程度の悪影響があれば、懲戒解雇は認められるのか。その線引きを明確に示すことは難しい。

「懲戒解雇の有効性は、さまざまな要素を総合的に考慮して判断されます。例えば2人とも社員なのか、片方は社外の人なのか。上司と部下の不倫で、情実人事はあったのか。職務に専念すべき勤務時間中にデートをしていなかったか。さらに業種も無関係ではなく、学校や警察など高いモラルが求められる職場で業務に支障が出るかどうかも判断要素の一つになります。懲戒処分の中でも解雇はとくにハードルが高く、こうした要素が積み重なって一定限度を超えた場合でなければ難しい」(横張氏)

たとえ懲戒解雇が困難でも、企業にとって不倫は無視できないリスク要因である。不倫が新たなトラブルを誘発することがあるからだ。不倫相手の夫や妻が会社に怒鳴り込んできたり、刃傷沙汰に発展するのはけっして珍しい話ではない。またフラれた社員が関係継続を迫ってストーカー化したり、腹いせに不倫相手をセクハラで訴訟提起するケースも十分に考えられる。このように別のトラブルに発展すれば、企業の社会的信用力は著しく低下する。具体的にトラブルになる前に、会社として対処できることはないのか。