「頭でっかち状態」にならないようにするには

しかしながら、インプットしただけの、使わない=未消化のまま置いておかれる知識が増大してくると、「これはうまくいかない、なぜならあの本にこう書いてあったから」というようにすべての事象を知識で判断するようになる。本を読んでどんどん知識だけがたまっていくと、頭でっかちの状態になる。頭でっかち、というと皆さんのアタマの中に「ああ、あの人のことか……」と1人くらいは顔が浮かんでくるはず。

この頭でっかち状態は、「行動の阻害」を起こし、動きを鈍らせる原因になる。数ある知識のなかから動かない理由を抜き出してしまうのだ。このように知識は時に実行力を奪う。博学だが動きが鈍い、やらない、最終的な成果は出せていない……。こんな人、まわりに1人はいるのではないだろうか。

これは、インプットする知識のリソースが、何も本やセミナーに限ったことではない。“人”からの直接のインプットだとしても同じことが言える。たとえばメンター、先輩経営者、友人知人の類い。人脈を広げること自体は否定されるものではないが、アドバイスなるものもただの知識であり、上述のように徹底した経験化のもと有用性を実証しない限り、これもまた行動阻害要因となり、迷いにつながるのだ。

「うまくいかない」経験を積み上げる

筆者の元部下との会話に出てきたような、1on1やエンゲージメントといった理論やメソッドについてはまた別の機会に詳しい分析をするが、この元部下に対してもその解説をすることは避けた。現状においてすでに知識過多になっている彼女に対して、さらに知識をかぶせて混乱させるのはあまりにも酷だからだ。「思うとおりにやってみて、生じた結果をまた教えてくれ」と伝えるにとどめた。「とにかく、やってみることが重要だよ」と。

みなさん未経験の領域でいきなり「うまくやろう」、100点満点の大正解を出そうと考えてはいないだろうか。人が成長し正解に近づくためには、実行(D)と修正(CA)を繰り返すことが重要。ところがいきなり100点を出そうとすると「失敗はダメなことだ」「失敗はしたくない」と考えて動きが止まり、成長の阻害要因となる。準備や計画(P)にこだわりすぎて行動が止まると成長できないのだ。

失敗は、成功に近づくための選択オプションを一つひとつつぶす作業だ、と考える。とにかく“早く失敗する”こと。

当社では新しい取り組みをする時、社長は「さっさと失敗しようぜ」という声をかける。これは、「いきなり正解は出せないので、すぐ実行して足りない部分をすみやかに認識しよう」という意味合いだ。計画(P)に時間をかけすぎたり、悩んで何もせずに時間が経過することのほうが危険なのだ。

時に、インプットをやめる勇気が必要だ

元部下には数カ月後にトライアルアンドエラーの過程を聞き、経験化して生じた事実を基に、ここに書いたような解説をしていこうと思う。この時初めて、経験+知識となり、彼女の「意識は変わる」だろう。

繰り返すが、インプット自体が悪ではない。“経験化とのバランス”が重要と述べているにすぎない。その知識の有用性は実行してはじめて証明される。料理レシピは、実際に調理して試食しない限り効果を確認できない。レシピを買い集めているだけでは何も起きないのだ。実行されずに未消化の知識にアタマの中の比重が多くなった時、インプットをやめて“経験化”に集中する期間が必要なのだ。

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冨樫 篤史(とがし・あつし)
識学 新規事業開発室 室長

1980年東京生まれ。02年 立教大学経済学部卒。15年グロービス経営大学院にて経営学研究科(MBA)修了。現東証1部のジェイエイシーリクルートメントにて12年間勤務し、主に幹部クラスの人材斡旋から企業の課題解決を提案。名古屋支店長や部長職を歴任し、30~50名の組織マネジメントに携わる。15年、識学と出会い、これまでの管理手法の過不足が明確になり、識学がさまざまな組織の課題解決になると確信し同社に参画。大阪営業部 部長を経て、現職。著書に『伸びる新人は「これ」をやらない』(すばる舎)がある。