トランプ大統領はFRBが小幅の利下げを決めても「失望した」と不満をぶちまけ、「FRB議長を解任する権限がある」とか「辞任を望むなら止めない」などとパウエル議長に対して常に利下げ圧力をかけ続けている。そうやってパウエル叩きをするたびに、「そろそろFRBは利下げするかも」と市場の期待値は高まる。これがトランプ大統領の言うことを諾々と聞く議長なら、方向性は織り込み済みだから期待値は膨らまない。パウエル議長のようにしっかりした人物が叩かれているから、市場は敏感に反応する。パウエル叩きはまさにトランプ金融劇場であり、利下げへの期待感を膨らませて株高を演出してきたのだ。パウエル叩きは一般の米国民には、(金融も財政も貿易も何も理解していないのに)やはりトランプが経済を支配している、と錯覚させる選挙トリックである。

米国の株高はどこまで続くのか

株高要因は株式市場の動向にもある。近頃は株式を新規発行するケースが非常に少なくなった。アメリカの公開株の時価総額は膨れ上がっているのに、発行済み株式数はこの20年でまったく増えていないのだ。

19年6月、ユニコーン企業(評価額が10億ドル以上の未上場のベンチャー企業)の1つである米ビジネス用チャット大手のスラック・テクノロジーズが上場を果たした。この上場では新規株式を発行せずに、既存の株式を取引所に登録する「直接上場」という方法が採られた。大手企業の直接上場によるIPOは18年末の音楽配信サービス、スポティファイ・テクノロジーの上場に続き2社目だ。

なぜ株式を新規発行しないのかといえば、面倒な手間暇とコストがかかるからだ。通常のIPOは手続きを主幹事の金融機関が頼まなければならないが、直接上場はその必要がない。金融機関に手数料を支払わなくて済むから、上場コストは大幅に下がる。

アメリカの株高はどこまで続くか。20年の大統領選での再選を目指すトランプ大統領としては少しでも引き延ばしたいところだ。アメリカの場合、401K(確定拠出型年金)を抱えている人が多いから、株高につながる政策は国民にとって大歓迎。叩けばホコリしか出ないトランプ大統領が支持、あるいは黙認されている最大の理由は、自分の財布を潤してくれるからである。

しかし今、株価暴落のトリガーは至る所に転がっている。冒頭の米中貿易戦争もその1つで、貿易戦争がエスカレートすれば世界的なリセッション(景気後退)につながる恐れは強い。秋以降には対中関税が消費者物価のインフレを誘発する可能性が高く、金利をかなり上げなくてはならなくなるからだ。金利が上がれば、安易な間接金融に浸っている米企業の負担も増すので、株価は下がらざるをえないだろう。一方、中国経済の崩壊も懸念材料で、今、中国の国有企業や地方政府の赤字状態は深刻だ。中国政府は必死に金をばらまいて景気対策をしているが、これまたトランプ劇場でアメリカとの激しい制裁合戦が続く中、向こう一年の間に中国経済が決壊する可能性は排除できない。