残る3人の中に逮捕者が2人いる

私は、現場周辺で聞き込めば、少年たちの名前はすぐにわかるだろう、と甘く考えていた。ところが、逮捕された少年たちのほとんどの家はもぬけの殻。複雑な事情を抱えた家庭が多かった。惨劇の舞台となったBの家の両親も、行方をくらましている。少年たちがどこにいるか、容易には確認できなかった。

最後まで事情聴取を受けていた少年は、7人。逮捕されたのは、そのうちの4人だ。7人の名前は判明しているが、その中の誰が逮捕されたのかがわからない。それでも佐々木記者の徹底取材で、家に帰された少年2人の名前はわかった。逮捕された4人のうち、2人の名前も確認できた。つまり、残る3人の中に逮捕者が2人いる。

『週刊文春』の原稿の締め切りは火曜日の朝。逮捕された4人のうち2人しか特定できないまま、取材リミットの月曜日の夜を迎えた。私は言った。

「佐々木さん、4人を特定できなかったら、残念ながら実名報道はできません」
「それは当然だよ。重大な記事だということはわかっているから、最後にひとつだけ、ぼくにやらせて」

そう言い残して、佐々木さんは編集部を後にした。

2時間か3時間が過ぎたころだろうか。編集部でじりじりしながら待つ私に、佐々木さんから電話が入る。

「残り2人の名前が特定できたよ。絶対に間違いないから」
「そうですか! よくやってくれました。お疲れさまです。編集部に上がってください」

捜査幹部「こんな酷い事件は前代未聞だ」

あとで聞くと、佐々木さんが最後に向かった取材先は、この事件を担当する幹部クラスの捜査員の自宅だった。ようやく招き入れてくれた相手に、取材の意図を丁寧に説明する。その捜査幹部は、犯行に対する強烈な怒りを隠そうとせず、実名報道にも理解を示してくれた。

しかし、逮捕した少年の名前は頑として明かさない。

「こんな酷い事件は前代未聞だ。長い刑事人生でも、あんなに悲惨な遺体を見たのは初めてだ。いくら少年だといっても、こんな奴らは厳しく罰しなければ、日本の社会が大変なことになる。それぐらい酷い事件だ」
「だからウチの週刊誌はあえて実名で報道して、少年法に関する議論を提起したい。そのためには、4人の名前を間違えるわけにはいかないんです」
「あなたの気持ちは、本当によくわかる。でも立場上、それだけは言えないんだよ」

30分がたち、1時間が過ぎた。佐々木さんは、こう持ちかけた。

「私たちは、家に帰された2人と、逮捕された4人のうち2人の名前まで特定しています。残り3人の中で誰が釈放されて、誰と誰が逮捕されたのかがわからない。今からその3人の名前を順番に言います。逮捕した少年の名前にうなずいたら、あなたが私に教えたことになる。だから、“いま警察にいない者”の名前を言ったときに、うなずいてほしい」