うわべだけの丸写しは大きな失敗を招く

それでは、好業績企業の事業の仕組みを丸写しするとよいのだろうか。結論からいうなら、それでは成功は望めないし、本当の意味での丸写しも実は不可能なのである。仕組みのうちで、だれにでも見える部分は氷山のほんの一部であり。水面下にある氷山の大部分はどのようになっているかはわからないからである。つまり、丸写しに成功したようにみえて、実は、仕組みの一部しか模倣できていないのである。

異業種から学ぶことに日本企業が苦手なのは、自分たちの企業が独特であり、自社が属する産業には、他産業とは異なる特徴があると考える傾向が極めて高いからである。それでは、日本企業は、丸写しの模倣はしないのだろうか。そんなことはない。

これまでにも、セル生産やカンパニー制やグローバル企業の地域統括会社、さらには、多品種少量生産などは業種業態を問わず、ベンチマーク対象とした成功企業の仕組みの見える部分の丸写しを行っているのである。しかしこのような対応は、安易な横滑り・うわべだけの模倣であり、そこから多くは得られないばかりでなく、大きな失敗を経験することになる。

それぞれの企業がそれぞれにユニークであるとすれば、仕組みを丸写しするのではなく、抽象化によって仕組みの背景にある考え方やルールを抽出し、一般化やパターン化してみればよい。そうすることは、業種業態等の特殊性を排除することができる。

キーエンスの仕組みに潜む高収益を支える仕組み(の一部)、事業の仕組みを構成する多くの部品を慎重に分析し、抽象化すれば、以下のように一般化できるだろう。

・顧客ニーズをスペックとして把握する仕掛け
・顧客の期待を超える新製品を次々と開発できる組織体制
・価格決定権保持
・製造と販売の同期化
・製造ノウハウを忘れない開発

一般化が完了したら、それをベースにして、自社に適合した具体化を行うとよい。このように、一般化のプロセスを組み込んだ「遠回り」ができれば、安直な横滑りやうわべの模倣による失敗を回避することができるのである。遠回りが、実は、成功への近道である。

「真似(マネ)ぶ」から自社オリジナル構築までのプロセス