書いてあるのは、「自分の娘には最低限、大人になる前にこれくらいは知っておいてほしい」と私が思う経済と社会のイロハです。かいつまんで言えば、「金もうけ」で付加価値を生まないと社会は豊かになれない。経済成長には「不労所得」のように見える資産運用や投資家が重要な役割を担っている、といった市場経済のメカニズムと、そこに自分が参加するうえでの心構えや意義がメインテーマです。

一般向けの経済入門書というのはたくさんあります。私自身、けっこうな時間をかけて「娘に読ませる良い本はないかな」と本屋巡りしました。

でも、金銭忌避の「洗脳」を解いてくれそうなテキストには出会えませんでした。よくできた解説書は多いけど、どれも腹にズシンと響くようなインパクトがない。“教科書的”なんですね。それならば「もう、自分で書いてしまおう」と家庭内連載を始めたのでした。

お金や経済に関する無知は「養分」への一本道

おそらく、日本では多くの場合、「子供」が経済に正面から向かい合うのは就職活動をするときでしょう。仕事の中身や年収から、人生設計をぼんやりと考える。家庭の事情などで学費の手当てに苦労するといったケースはあるかもしれないが、それは「お金に困っている」だけで、経済の仕組み、世のカラクリにまで考えは及ばない。

『おカネの教室 僕らがおかしなクラブで学んだ秘密(しごとのわ)』(高井 浩章著・インプレス刊)

就活を何となくやり過ごしてしまうと、経済と向き合うのは結婚や転職を検討するあたりまで先延ばしになる。運が良い(悪い?)と「老後は大丈夫かな」と気になる年齢まで、「お金のこと」「経済の勉強」を先送りできたりします。

これは、やっぱり、まずいわけです。

現代社会では、ごく一部の例外を除いて、誰もが否が応でも金銭や経済に関わって生きていくのです。経済の基礎は、言ってみれば「大人の世界のルールブック」です。ルールも知らないでゲームに参加するのは「カモにしてくれ」と言っているようなものです。

福本伸行さんのマンガに「養分」という絶妙な文句があります。素人なのに投資に手を出して損する側に回るヒト。詐欺にコロリと騙されるヒト。高利のローンや保証人制度といった借金地獄にはまるヒト。もっと広い意味で言えば、低賃金で非人間的な働き方を強要されるブラック企業の従業員も、このカテゴリーに入るかもしれません。誰かが肥え太るための「養分」というわけです。