クレジットカードのリボ払い、高リスクの投資信託……。詐欺のような犯罪だけではない。実生活にはお金にまつわるさまざまなトラップがあり、リテラシーがなければ誰かの「養分」にされてしまう。経済記者として20年超の経験を持つ高井浩章氏は、娘にお金の大切さと怖さを教えるために、経済をテーマにした青春小説を書き下ろした。最大の狙いは「お金は汚い」という洗脳を解くことだった――。

「カネもうけ」はなぜガティブなのか

「カネもうけ」。この言葉、ちょっとネガティブな感じがしませんか。不当な利益を上げる商売、といったような。「不労所得」というのもネガティブワードですよね。汗水たらして働きもしないで、株式の配当や賃貸収入でもうけるケシカラン輩、といった感じの。「目指せ憧れの不労所得生活」なんて文句には、「『ズルしてる側』にまわりましょう」というニュアンスがある。「カネがカネを生む」なんていう、資産運用はいかがわしいとにおわせる表現もあります。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Ruslanshug)

最近では、「経済成長」という言葉にまでネガティブに反応する人がいます。頭の中で「無理な」といった枕詞が補われているのでしょうが、それが社会の歪みを生む諸悪の根源みたいな文脈で「経済成長」という単語が用いられるのを見ると、ちょっとクラクラきます。

こういう感覚の根っこにあるのは、古くからある「お金は汚い」「金銭にこだわるのは卑しい」「株式投資はギャンブルみたいなもの」といった価値観なのでしょう。日本には、大人になるまで、場合によってはいい大人になった後でも、「お金のことを考えるのは後回しにしてしまおう」という傾向が強いように思います。

そういうある種の金銭忌避の「洗脳」を解きたくて書いたのが、「おカネの教室 僕らがおかしなクラブで学んだ秘密」です。

娘のために7年かけて書いた青春小説

この本は、経歴不詳の変な先生と男の子と女の子の3人が「そろばん勘定クラブ」という課外活動でお金と経済について学び、その過程であれこれ起きる、ちょっと変わった青春小説です。「経済」と「青春」は相性が悪そうですが、もとが自分の娘を読者に家庭内で連載していた小説だったので、気ままに書いているうちに変な本になってしまいました。連載開始が2010年、三姉妹の長女が5年生になったころで、完結したのが2016年でした。

私の本業は新聞記者で、株式や債券などのマーケットや国際ニュースの取材や編集を20年ほどやっています。家庭内連載版の小説が完結したとき、知人に配ったら評判が良かったので、試しにKindleで個人出版したら、これが1万ダウンロードを超えるヒットに。それを大幅リライトして商業出版したという、成り立ちもちょっと変わった本です。