危険な原発とどう向き合うか。小泉進次郎は学生たちに、孫正義は国会議員を前に、講義を行った。田原総一朗も注目するこのスピーチをすべて公開する。

小泉進次郎

現在稼働している原発の安全性は高める。地域の理解が得られれば稼働もしていく。その中で将来的に原発にとって代わる自然エネルギーの技術を高めていく。そうした先にようやく「もう原発はいらないね」とすべきだと思っています。

<strong>小泉進次郎●衆議院議員</strong>。1981年、神奈川県横須賀市生まれ。現在、衆議院にて内閣委員会委員、予算委員会委員、議院運営委員会委員をつとめる。
小泉進次郎●衆議院議員。1981年、神奈川県横須賀市生まれ。現在、衆議院にて内閣委員会委員、予算委員会委員、議院運営委員会委員をつとめる。

おそらく今、原発を巡っての議論の中にはかなりの部分で感情論が入り込んでしまっています。脱原発か原発推進か。その二分論に終始してしまい、冷静な議論ができなくなっている。

たとえば「脱原発なら今すぐ原発を止めろよ」という人もいるでしょう。もちろん私だって、今すぐ原発を止めて国民の生活に何の支障も出ないなら、止めるべきだと思います。しかし現実的にそれは不可能です。日本は現在、GDP世界第3位にいます。以前に比べたら少し落ちたとはいえ、それでも経済大国であることに変わりはありません。これだけの産業力、経済力を抱えた国家でありながら、もし安定した電力が供給できなくなったらどういうことが起こるか。

事はそう単純な話ではありません。「電力が足りなくて困る」くらいならまだいいですが、むしろ私が懸念するのはそれをチャンスととらえる人も出てくるだろうということです。つまりこれまで歯を食いしばりながら日本国内で耐えてきた企業が、これを機に一気に海外に流出していくだろうということです。

日本は人件費も高い、法人税も高い、円高も止まりません。そこにさらに電力不足と、それどころか原発を廃止することで火力発電の割合が増え、一気に電力料金が跳ね上がる事態が生じたらどうなるか。「もうこれ以上は限界だ」となる企業が続出するでしょう。あるいはこれまで海外に出ることに二の足を踏んできた企業が、いっそこれを機に新たな市場開拓を求め海外へ出ていくことだってある。日本の雇用をこれまで必死に支えてきたこれらの企業が、もし一斉に水門を開くように海外へ流出してしまったら……、日本の産業は空洞化します。

そのような事態を招かないようにするのが政治の責任なのです。「脱原発」もいいでしょう。自然エネルギーもいいでしょう。ただ原発から自然エネルギーにシフトする時期をどういう時間軸で見定めるべきか、その議論は慎重に行うべきです。

3.11後、様々な場で聞かれるようになったのは、「人々の絆を大切に、皆で仲よく生きる共生社会をつくろう」というものです。それは若い人がよく使うロハスとかスローライフに通じるイメージなのかもしれません。でももし人々がこの「共生社会」という概念を、競争社会の対極にあるものとして使っているのであれば、つまり「競争などしたくない」という意味で使っているのだとしたら、私はそれは間違っていると思います。

世の中に競争がまったくない社会など存在しません。世界中がロハスでいけるならいいですが、今の世界の進んでいる方向を見てください。どこの国も必死になって競争している。その国際競争から敗者として脱落しないためには、日本だけが競争しない社会をつくるわけにはいかないんです。

今回の震災、津波、原発事故では、各国が日本に対して惜しみない援助を送ってくれました。それ自体は大変感謝すべきことです。しかしこのような事態は、実は長期的に見れば世界が日本につけいるチャンスなんです。その視点だけは忘れるべきではないでしょう。