ここで沙鴎一歩が気がかりなのは、死刑執行を翌朝に控えた7月5日夜、9月の総裁選を盛り上げるための自民党議員らの宴会で、上川法相と安倍晋三首相が笑顔で料理とお酒を楽しんでいたことである。彼らの人間性を疑いたくなる。

「安倍1強」。強い政治権力を握ると、死刑囚とはいえ7人もの人間に対して一斉に死刑執行ができる。言い換えれば安倍1強が今回の一斉死刑を生んだわけである。背筋がゾッとする。

「従来どおりの秘密主義を貫いたのは残念」

さていつものように各新聞社の社説を見ていこう。

読み応えのあったのは「根源の疑問解けぬまま」との見出しを掲げた7月7日付の朝日新聞の社説である。扱いは一本社説の他紙と違い半本なのだが、その中盤で「刑事裁判で解明できることには限りがある」と的を射た主張を展開している。

冒頭部分で「一連の事件では13人の死刑が確定した。今回その中の7人の執行を決めた理由や松本死刑囚の精神状態について、会見した上川陽子法相は『個々の執行の判断にかかわることは答えを差し控える』と繰り返すばかりだった。世界からも注目が集まる事件で、従来どおりの秘密主義を貫いたのは残念だった」と指摘する。

賛成だ。上川法相にはすべてを話してもらいたかった。そうすることで死刑に対する世論も漠然としたものから具体的なものへと変わってくるはずだ。

朝日社説も「多くの国が死刑廃止に向かうなか、日本は世論の支持を理由に制度を存置している。だがその実態は国民に伝えられず、刑罰のあり方をさまざまな観点から議論する土台が形づくられているとは言いがたい」と解説し、「考えを見直し、できる限りの情報公開に努めるよう、改めて求める」と訴えている。

「ここにしか真実も居場所もない」と思いつめていった

さらに朝日社説は「なぜ教団は社会を敵視し、サリンの散布にまで走ったのか。暴走をとめることはできなかったのか。その根源的な疑問は解けないまま残されている」と指摘したうえでこう主張していく。

「中でもとり組むべきは、教団が若者を吸い寄せ、拡大を続けた理由を解き明かすことだ」
「元信徒らの発言や手記をたどると、神秘体験への好奇心や当時の仕事への幻滅などから入信し、その後『ここにしか真実も居場所もない』と思いつめていった様子がうかがえる」
「社会への小さな違和感がめばえた段階で、他に頼れる場があったなら、と思わずにはいられない。ところがいまの日本は、その『場』を用意するのではなく、むしろ自分たちとは違うと思った存在を排除し、疎外感を募らせる方向に流れてはいないだろうか」

アメリカのトランプ大統領の米国第一主義の弊害とされる「社会の分断」がそれに当たる。同じような保守主義でトランプ氏に従う安倍首相にもその危険性が強い。自分と違うと感じる他者を切るのではなく、意見や考えに耳を傾けることが大切なのだ。