かつてない被害をもたらした西日本豪雨災害。一部のメディアは大雨特別警報の発令前夜に安倍晋三首相や自民党議員らが「酒宴を開いていた」といって感情的な批判をぶつけるが、それでは本質的な問題解決にはならないと橋下徹氏は苦言を呈する。災害対応の本質とは何か。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(7月17日配信)より、抜粋記事をお届けします――。

感情的な「赤坂自民亭」批判で見えなくなること

写真=iStock.com/tomorca

今回の豪雨災害で、気象庁による大雨特別警報は7月6日の夕方から発令された。その前日の5日夜に、安倍晋三首相をはじめとする自民党議員が、議員宿舎において「赤坂自民亭」と称し、お酒も入った懇親会を開いていたらしい。安倍さんや参加者たちが乾杯している様子の写真を、当の自民党議員がSNSにアップした。その後このような大災害になったことによって、安倍さんや安倍政権に危機管理意識が欠如していると、野党などから批判されている。

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しかし、政治家が自然災害を完璧に予測できるはずがない。現代国家の日本には、気象情報の分析を任とする「気象庁」という公的な機関が存在する。ゆえに、自然災害の予測については、第一次的にはこの気象庁の分析に頼るしかない。

そして、国レベルでの災害対応なんて、当然、政治家個人の力では対応できない。政府組織や地方自治体組織が一丸となって対応すべきことである。ゆえに、災害が発生したかまたは発生する恐れがあるときに、政府組織や自治体組織には、災害(非常災害)対策本部などが設置されることになっている。簡単にいうと、首長を本部長として地方自治体に設置されるのが災害対策本部、国務大臣を本部長として政府(内閣府)に設置されるのが非常災害対策本部だ。

これら災害(非常災害)対策本部が設置されるときとは、どういう場合か。そしてこの本部はどのようなときに、どのような対応をするのか。これを定めるルールが、いわゆる組織の「行動基準(設置基準を含む)」であって、それは法律や地域防災計画として定められている。きちんとルール化されているんだよね。

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今回の大豪雨災害が発生した後に、遡って赤坂自民亭の開催を感情的に批判するのではなく、総理大臣や災害(非常災害)対策本部の役割をきちんと分析した上で、安倍首相や日本政府の対応、そして地方自治体の対応に不備があったのかどうかを検証し、不備があるならそれを見直す議論をすべきである。組織は全てルール(行動基準)に則って動くわけだから、結局のところ、「行動基準」の検証、見直しが重要になってくる。感情的に赤坂自民亭の開催を批判しても、問題点の改善には何一つ繋がらず、クソの役にも立たない。

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災害(非常災害)対策本部を立ち上げるメリットとデメリット

災害(非常災害)対策本部が設置されると、通常の役所の動き方とは異なる動きをすることになる。これまでは各部局で完結していた判断が、そうはいかなくなり、本部に判断を仰いだり、他部局との調整が必要になってくる場合が出てくる。また情報共有の観点から、報告事項が新たに増え、事務作業が増えたりする。

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災害(非常災害)対策本部が情報を収集するだけに終始し、「各部局に立ちはだかる壁を乗り越える」という災害(非常災害)対策本部ならではの仕事をしないなら、結局災害(非常災害)対策本部の作業は無駄な労力に終わってしまう。本部ならではの仕事、役割とは何か?

災害(非常災害)対策本部が設置されて、首相や知事などが、カメラの前で「人命救助を第一に考えるように」という指示をしている場面が、ニュースによく流れるでしょ? でもあんな指示は無意味。だって人命救助が第一、なんて言われなくても各部局は当然分かっていることなんだから。

そうではなくて、10日に安倍首相が行った「コンビニへの物資輸送車両を緊急車両扱いにする」という判断と指示は、災害(非常災害)対策本部ならではのもの。緊急車両扱いにするかどうかは、国家公安委員会・警察庁の所管。でもコンビニに物資不足が生じ、被災者が非常に困っている状況は、総務省などが把握している情報。その上で、道路状況は国土交通省が把握している。これらの省庁が把握している情報が本部に迅速に集約され、最後は総理大臣が緊急車両扱いにするという判断を下すことができるのは、災害(非常災害)対策本部ならではの仕事で、これが各省庁ごとで対応するということになると、ここまで早い決定と措置にはならなかっただろうね。各省庁間での議論・調整に膨大な時間と労力を費やしていたはずだ。

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