得意先に本音を言ったら、貴重な経験ができた

組織が結束し、1つの方向へ進もうとするとき、“自分の考え”を理解してもらわなければならない局面があります。そこで普段から私は、「本音を語る」ことを心がけているんです。そうすれば、いざというときに周囲からの理解を得ることができます。そればかりか、周囲も“本音”を漏らしてくれます。

サッポロビール社長 高島英也氏

37歳で製造部長として大阪工場に着任した際、私は工場の存続に危機感を抱きました。そのため、お客様の声に耳を傾けようと、「いつもと味が違う」といった指摘があれば、営業担当に同行しお客様のもとを訪ねていたのです。当時、生産技術部門の社員が外回りをすることはまずありません。しかし、お客様の“本音”を聞ける貴重なチャンスでしたから。

そんな折、ある量販店の社長が大阪工場に見学に訪れました。私が、サッポロビールの歴史やモノづくりの哲学、味へのこだわりについて話をすると、その社長は「売れない理由がよくわかるよ。メーカー発想なんだよ、あんたは」と言うのです。思わず私は「工場の人間がメーカー発想で何が悪いんでしょう?」とストレートに言ってしまったんです。隣にいた営業から怒られたのは言うまでもありません。確かに配慮が必要でしたが、“本音”を伝えたことで、私は貴重な体験をするチャンスを得ます。なんとその量販店の社長が「だったら、うちの店に来て売ってみろ」と言ってくれたのです。

当時のサッポロビールは、「フレッシュキープ製法」「定温輸送」を売り文句にしていました。だから、つくりたての商品をその量販店に特別に配送し、毎週土曜日に、私が量販店の店頭に立ち販売活動をしたのです。