「三流大学にお金を借りてまで行く必要はない」。もしそう考えているとすれば、それは大間違いだ。東京大学の濱中淳子教授らの研究によれば、進学率5割を超えた現在であっても、高卒者が大卒者になることで、その人が生涯に支払う税金は大きく上昇する。学費をすべて公的負担しても税収にはプラスなのだ。しかし世間の「大学不信」は根強い。必要なことはなにか。東京大学の濱中淳子教授に聞いた――。

大学生の2人に1人が奨学金を借りている

日本学生支援機構によれば、平成28年度までの30年間で国の奨学金を借りている人は約44万人から約131万人に増えた。現在、大学生の2人に1人が奨学金を借りている。貸与者が増えるのに伴い、奨学金を返せない人も増え、機構によれば、平成28年度までの5年間で、のべ1万5338人が奨学金を返せず自己破産している。

奨学金は「教育の機会均等」の役割を持つが、学生が将来にわたり、多額の借金を背負うことも意味する。奨学金破産や延滞が問題となる現状に対し、「お金を借りてまで大学に行く必要はない」とする意見もある。大学の教育費は誰が負担すべきなのだろうか。

東京大学高大接続研究開発センターの濱中淳子教授は、「大卒者が増えるほど、国の税収は増える。進学費用の公的負担を真剣に考えるべきだ」と主張する。

濱中氏らは共著『教育劣位社会』(岩波書店)で、国の「賃金構造基本統計調査」を用いた推計を紹介している。その結果、「高卒者が大卒者となることで、その人が生涯に支払う所得税は1500万円上昇する」という。理由は、大学時代に学習習慣を身につけることが、就職後の学習の継続につながり、所得の向上をもたらすためだと考察されている。

いまや大学は「レジャーランド」ではない

だが、現在の日本では「大学の進学費用は個人が負担するべきだ」という考えが支配的だ。なぜそうした偏った認識が広まっているのだろうか。理由はどこにあるのか。濱中氏は「現役世代の大半が、大学教育の効用を実感できていない世代だからではないか」と話す。

「『大学なんか意味はない』と言っている人は2つのタイプに分けられます。いわゆる『地頭がいい人たち』と『1990年代以降の大学を知らない人たち』です。もともと頭が良くてビジネスで成功した人たちが、大学教育に意味を感じられないのは当然でしょう。また後者のタイプの多くは、『レジャーランド時代』に大学に通っていたので、勉強していた記憶がないのでしょう。しかし今の大学はその頃とは違います。当時の経験から、現在の大学を評価するのは間違っています」