フェイスブックの個人情報漏洩問題を改めて考える

米ハーバード大学で19歳の学生が立ち上げた学内交流サイトが今や世界最大のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)へと成長を遂げて、利用者数は全世界20億人――。といえばフェイスブック(FB)のことである。

そのFBで膨大な個人情報の漏洩問題が発覚、情報を不正に取得された被害者は8700万人に上ることが判明した。同社CEOのマーク・ザッカーバーグ氏はこの問題で米議会上下両院の公聴会に呼び出され、対策の不備を認めて全面的に謝罪した。

情報漏洩のきっかけは、英ケンブリッジ大学の心理学教授アレクサンドル・コーガン氏がFBを通じて行ったユーザー調査だった。教授自身が開発した性格診断アプリをFB上に公開して約27万人の個人データを集めた。調査自体はFB社との契約に基づく学術目的の合法的なものだった。ところがコーガン教授は集めた個人情報をイギリスの民間データ分析会社、ケンブリッジ・アナリティカ(CA)に横流しする。

個人情報流出について欧州議会で謝罪したザッカーバーグ氏(5月22日)。(AFLO=写真)

27万人というのはコーガン教授のアプリをダウンロードしたユーザーの数だ。しかし、この手の心理アプリやクイズアプリ、占いアプリなどをインストールして利用した場合、ユーザーはアプリ開発者が個人情報にアクセスするのを許可したものとみなされる。FB上に公開される個人情報の中には「友達リスト」などの友人情報も含まれているから、友達の友達、そのまた孫友達という具合に、芋づる式にアクセス可能な友人情報が広がっていく。コーガン教授のアプリを利用したのは27万人にすぎないが、結果的には8700万人分の個人データがCA社に流れたわけだ。

ところでコーガン教授の調査に目を付けたのはCA社側と言われているが、彼らはいかなる目的で膨大な個人情報を集めていたのか。実はリサーチ会社は表向きだが、CA社はイギリスとアメリカに拠点を置く選挙コンサルティング会社だ。2016年のアメリカ大統領選挙でトランプ陣営のSNS戦略に深く関わったことで一躍名を馳せ、さらに同年のEU離脱の是非を問うイギリスの国民投票にも介入したと言われている。

16年のアメリカ大統領選挙は優位と見られていた民主党のヒラリー・クリントン候補が私用メール問題で失速、激烈なネガティブキャンペーン合戦の末にトランプ大統領が勝利。トランプ陣営は私用メール問題のようなリアルな失点から「同性愛者らしい」といったたわいもない噂レベルまで、ネットやSNSを使ってあらゆるネガティブ情報を流して反ヒラリーキャンペーンを展開した。FBから流出した8700万人とされる個人データの8割はアメリカ人と見られ、反ヒラリーの情報拡散にそれが利用されたのではないかと報じられている。