本当は、日本は一時帰国するだけの予定で、すぐコロンビアで取材を続けるつもりでした。あれから1年。今年4月、私はコロンビアのジャングルへ取材に行きました。昨年告発後に止まってしまった取材をやっと再開することができたのです。時間はかかったものの同じ場所で仕事が再開できたことの喜びは大きく、少しずつではありますが、前進できていると実感しています。

テレビ朝日の女性記者もその後の仕事、生活がどうなるのかなど、いろいろな不安に襲われる中、告発に踏み切ったのだと思います。それでも、今回、彼女が声をあげたのは「これ以上同じ思いをする人が出てほしくない」と、彼女が考えたからではないでしょうか。

「嫌よ嫌よも好きなうち」は古すぎる

これまで、どれほどの人が、セクハラやハラスメントの苦痛に耐えながら、仕事を続けてきたのだろう。言葉にはできないようなつらい経験した女性もいたと思います。会社内でセクハラが起きたら、被害者の担当を変えて加害者からの距離を離し、そのあとは何事もなかったかのようにした。そんなこともあったことでしょう。明確な「NO」を突きつけない限り、このようなセクハラがなくなることはありません。

世界各地で起きた#MeTooの動き。今まで聞きいれられなかった声、上げることすらできなかった声、そしてこれまであげられた声、その全ての声が大きくエコーしています。今まで被害者を一方的に沈黙させてきた芸能、政治、スポーツありとあらゆる業界にいる人たちに「NO」が突きつけられています。

スウェーデンでは#MeTooやアンチハラスメントの動きを受け、法律が強化されます。今年7月より施行されるこの新しい法律では、性的行為に及ぶ場合は、明確な合意(口頭、または行動)がなければ犯罪になります。今までは被害者が抵抗したか「NO」と示したかが話し合われましたが、これからは「YES」と示したかが焦点になるのです。日本でも合意についての認識をしっかりと学ぶ教育が必要でしょう。「嫌よ嫌よも好きのうち」という思考はあまりにも時代遅れです。

「犯罪被害者に『社会はあなたの味方』と表したい」

この法改正について、スウェーデンのステファン・ロベーン首相は「被害の申し出をしやすくすることを促し、犯罪被害者に対し『社会はあなたの味方』であることを表したい」と伝えています。日本の社会は「あなたの味方」だとセクハラ、性暴力被害者に寄り添えているでしょうか?

声がやっと届いたいまだからこそ、これからはその声をしっかり聞き入れる必要があります。その声がいつあなたのものになるか、あなたの大切な人のものになるか、わからないのです。

声をあげてくださったテレビ朝日の女性記者へ改めて敬意を示したいと思います。そして彼女の声とともに動いた人々の声をしっかり受け止め、私たちも世界とともに大きく前進する必要があるはずです。

伊藤 詩織(いとう・しおり)
ジャーナリスト
1989年生まれ。フリーランスとして、エコノミスト、アルジャジーラ、ロイターなど、主に海外メディアで映像ニュースやドキュメンタリーを発信している。国際的メディアコンクール「New York Festivals 2018」では、Social Issue部門とSports Documentary部門の2部門で銀賞を受賞。著者『Black Box』(文藝春秋社)が第7回自由報道協会賞大賞を受賞した。
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