「作るべきは自動車ではなく、生物だと思った」

【田原】お医者さんでも、見過ごしや誤診が起こるんですか。

エルピクセル 代表取締役 島原佑基氏

【島原】ガンかどうかは、CTやMRIの画像だけでなく、体に針を刺して組織を取る病理検査を経て最終的に判断されます。ところが、病理の専門医は日本に約2300人しかいません。その人数で日本全国のガンを調べているので、医師の方々はどうしても忙しい。また、診断も「このガンは顔つきが悪い」というように感覚に頼ったものが基準になることもあり、医師によって見解が分かれる場合もあります。そこを定量的な分析システムで支援すれば見過ごしや誤診を減らし、さらに医師が患者さんと向き合う時間を確保することも期待できます。精度も実用レベルで、約9割の感度でガンや脳疾患などを発見できるところまで向上しています。

【田原】世間では「AIが進化すると人間の仕事が奪われる」論がありますね。島原さんのソフトが普及すると、一部の医師はいらなくなるかもしれない。現場の反応はどうですか。

【島原】面白いアンケートがあります。実際に仕事にAIを使っている医師は1~2%ですが、「AIを使ってみたいですか」と質問したら、「使いたい」と回答した医師が8割に達しました。AIにはまだできないことがたくさんあって、むしろ現状では期待が先行している印象がありますが、どちらにしても「AIがあると助かる」という声が多いです。

【田原】島原さんが画像解析に着目した経緯をうかがいましょう。島原さんはもともと大学で遺伝子工学を学ばれていたそうですね。AIとは直接関係のない分野だ。

【島原】もともとは車が好きで、高校生のころは21世紀に必要とされる水素自動車や電気自動車などのエンジニアになりたかったんです。しかし、大学に入る前に新聞で「iPS細胞発見」の記事を読んで進路を変更。もう自動車をつくる時代じゃない、これからは生物をつくる時代だと考えて、大学では遺伝子工学を学ぶことにしました。

【田原】生物をつくる?

【島原】iPS細胞は、いわゆる万能細胞。シグナルによって、たとえば肝臓など、いろんな組織になれます。さらに研究が進めば、生物の個体をエンジニアリングする時代になると思いました。