過去最高益を更新し、絶好調のトヨタ自動車。その決算会見は異例に長いものだった。これまでトヨタの決算会見は株式取引が終了した午後3時以降にはじまり、45分程度で終わっていた。それが今回は、取引時間中の午後1時半からはじまり、副社長らの決算説明と豊田章男社長の会見という2部制で、2時間余りもかかった。その理由はなにか。ジャーナリストの安井孝之氏は「豊田社長の危機感のあらわれ」という――。
2018年5月9日、決算会見でスピーチをするトヨタ自動車の豊田章男社長(撮影=安井孝之)

「生死を賭けた闘い」をどう勝ち抜くのか

トヨタ自動車の2018年3月期決算は純利益が2兆4939億円と前期比36%増となり、過去最高を記録した。この数字は日本企業として過去最大だ。電動化や自動運転の開発競争が激化し、「100年に一度の大変革」の時代に「生死を賭けた闘い」(豊田章男社長)が始まっている。決算は最高となったが、この先の戦いをどう勝ち抜こうとしているのか。会見の発言から紐解いてみたい。

トヨタは今年の決算説明会を2部制とし、時間も例年の3倍近くの2時間余りに延ばした。これまでは豊田社長のスピーチ、副社長らの決算説明、質疑応答を45分程度で行っていた。豊田社長は例年、冒頭のスピーチで、経営に込めた思いを伝えてきたが、その時間は限られていた。また決算発表のため、質疑はどうしても売上高や販売台数などの数字にまつわるものが多くなる。

今年は、1部で副社長らが決算の詳細を説明し、2部で豊田社長が思いを語る、という形に変えた。開始時間は例年、株式取引が終了した午後3時以降だったが、今回は取引時間中の午後1時半からだった。しかも東京海上ホールディングスや日本生命保険、メガバンクなどの経営トップや機関投資家を招き、そのうえで自身の思いを語りかけた。

「『トヨタらしさ』があらわれ始めた決算」

1年前の決算発表では18年3月期も17年3月期に続いての減益見通しだった。その席で豊田社長は「連敗は絶対にいけない」と語った。その「公約」を徹底的な原価低減活動を進め、守った形である。

今年の会見で何度も繰り返されたのは、「TPS(トヨタ生産方式)」と「原価低減」という2つのキーワード。TPSは無駄のない部品や商品の流れを実現させる「ジャスト・イン・タイム」の生産方式であり、原価低減は「販売価格は市場のお客さまが決める。われわれにできることは原価を下げることだけだ」という考え方だ。この2つは「トヨタの真骨頂」(豊田社長)というもので、トヨタの原点といえる。今年の決算について豊田社長は「たゆまぬ改善という『トヨタらしさ』があらわれ始めた決算」だと指摘した。