自己啓発の世界では「夢に日付を入れる」とか「夢を手帳に書いていく」という手法が知られています。しかし岡崎ビジネスサポートセンター(OKa-Biz)で8000件以上の経営相談を受けてきた秋元祥治さんは「はっきりとした夢と目標(to do)を持たねばならない、という強迫観念のほうがよっぽど不健全」といいます。秋元さんの著書『20代に伝えたい50のこと』(ダイヤモンド社)から、その理由をご紹介します――。

夢から目標から逆算する方法は重要だけど

正直に言うと、大学生の頃とか「将来の夢」ってありませんでした。いや、大学生の頃だけでなく、もしかすると今も「これを実現したい」という夢はないのかもしれません。

でも、はっきりした夢がなくてもいいんじゃないかと思っています、今。

秋元祥治『20代に伝えたい50のこと』(ダイヤモンド社)

20歳前後の僕は、将来の夢を聞かれることが嫌でした。何か「これ!」というものは自分の中にないのに、周囲のオトナに夢を語ることを期待される。そして、はっきりとした夢がないことに、どこかオトナからがっかりされてしまう、そんな風に感じていたのです。

これまでの自己啓発的な本だって「夢に日付を入れる」とか「夢を手帳に書いていく」とかといったものが多かったように思います。

イチロー、本田圭佑、石川遼……

夢や目標から逆算していくことが、それを実現するために大事なことなんだと言われてきました。そして、イチロー選手の小学校の作文はあまりにも有名ですよね。

「僕の夢は、一流のプロ野球選手になること……」との書き出しからはじまり、逆算をしながら小学校の日々での野球への努力の仕方まで落とし込まれたもの。

明確にこれがやりたいのだ、ということがあるのであればこうして逆算をしていくということはとても大事なことだと思います。サッカー選手・本田圭佑さんやゴルフ選手・石川遼さんの小学校時代の作文も同じように、夢から逆算し具体的に描かれているものだと注目されました。本田選手は「Jリーグ、セリエA、そしてワールドカップの決勝でブラジルに2対1で勝つ」といった夢からブレイクダウンして描かれていました。そして、石川選手は「日本アマチュア選手権、日本オープン、そしてマスターズで二度優勝」といったところまで具体的な目標があり、そしてそこへの道筋として「みんなが一生懸命練習をしているなら、僕はその二倍、一生懸命練習をやらないとだめ」だと記しています。

夢や目標を定めた逆算思考にも限りがある

確かに、夢や目標から逆算していくことはとても重要だし、できることなら、そうしたらいい。けれど、はっきりとした夢がなくても、別にいいんじゃないかと思うのです。はっきりとした夢と目標(to do)を持たねばならない、という強迫観念のほうがよっぽど不健全ではないでしょうか。

まして、遠く未来の夢や目標を定めても社会がどんどん変わっちゃう世の中です。前提とする社会が変わってしまうのだから、夢や目標を定めた逆算思考にも限りもあると思いますし。

10年前にはスマホはなく、20年前にはインターネットも一般的じゃなかった。30年前には携帯電話もごく限られた人のツールだった……今の中学生あたりには、信じられない話でしょう。鉄鋼や造船業に行くことが花形だった時代も、証券会社が勝ち組と言われた時代ももう昔となりました。そんな激しい変化の中で、一度決めた夢と、その道筋に固執することはもはや現実的ではないのではないでしょうか。

やりたいことを見つける方法として「目についたら行ってみる、誘われたら断らない」という考え方を紹介しました。様々な人や物事に出会う中で、自身が大切だと思うもの、ちょっと違うと感じるもの……様々なことを相対化することが大事だということ。そしてそんな中で、価値観が形成されるのだ、モノサシが少しずつ形作られていくと思うのです。