ネット時代に渇望感を刺激する販売戦略

オンライン・ショップがあるのだから、商品との出会いがあっても、買うか買わないかの意思決定は先送りしておいて、また考えればよい。

「ショールーミング」とも呼ばれる、消費の延期化である。このショールーミングの影響を特に受けやすいのが、ファッション関連商品のような不要不急の嗜好品である。明日の朝食は今日買っておく必要がある。しかし明日身につける服や靴は、ワードローブから引っ張り出せばよい。オンライン・ショップが充実していくなかで、ファッション関連商品の販売方法は転機を迎えつつある。

このような時代にあってのポップアップストアという、販売期間を限定した店舗の有効性は、消費者の購買機会を制約することにある。購買機会の制約が、販売機会の拡大を生み出すというのは逆説的だが、その媒介変数は消費への渇望感の刺激だと沼部氏は語る。期間限定のポップアップストアだからこそ、出会ったお気に入りの商品を、今ここで購入しておかなければならないという思いに、消費者は駆られることになる。

ライフスタイル提案を行う総合ブランドであれば、靴を購入した次は、コーディネートを考えてブラウスにジャケットをと、季節ごとに、あるいはライフステージごとに提供する商品が広がっていく。しかし一点主義の専門ブランドの店舗では、このようなクロスセリングはそもそも生じにくい。

そうなのであれば、常設店舗をかまえることから広がるクロスセリングの可能性を追求してみてもしかたない。逆に制約によって枯渇感を刺激することが有効なのではないか。ファルファーレの躍進は、沼部氏のこのような仮説の有効性を実証するものといえる。

売れない時代によそを見ているだけでは駄目

ファッション産業の外側から飛び込み、一歩一歩成果をあげてきた沼部氏。門外漢の彼女の目から見ると、日本の代表的なアパレル企業のマーケティングには不思議な点も多いという。

「売れないとわかっていながら、シーズンで50型つくらないといけない、という常識にとらわれ、やっつけ仕事でデザインをこなし、売れない商品をつくっていくのは、私には不思議です」

こうした定石にとらわれない沼部氏の着眼が、専門ブランドの強みの見定め、前提となる市場規模の見極め、そしてデジタル時代にあってのクロスセリングとは異なる販売拡大への転換などにいかされ、ファルファーレのヒットが生まれた。

沼部氏がかつて、専門ブランドに目をつけた時期は、ユニクロがフリースジャケットというキラーアイテムで一点突破を果たし、大躍進をとげた時期と重なる。とはいえ、沼部氏は、そのことをまったく意識していなかったという。ライバルを無視するわけではないが、「売れない時代にあっては、よそを見ているだけでは駄目」と、沼部氏は語る。

衰退するいっぽうではないのだ。日本のファッション産業には次をねらう底力がある。そしてそのなかで、曲がり角にあるファッション都市・神戸。しかしこの街も、クロシェのような会社が次々と生まれていくことで、業界全体も活性化していくのだと思う。

栗木 契(くりき・けい)
神戸大学大学院経営学研究科 教授
1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。
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