埼玉県を中心に180店以上の飲食チェーンを展開する「山田うどん」(埼玉県所沢市)。いずれも経営学者の新井範子氏と山川悟氏は共著『応援される会社』(光文社新書)で同店を取り上げ、「麺のコシにもマネジメントにも、独特の『ゆるさ』があることが強みになっている」と分析する――。

※本稿は、新井範子・山川悟『応援される会社』(光文社新書)の第3章「応援されるブランドの類型と特徴」を再編集したものです。

変にカッコつけない、トレンドに乗らない

本稿では、「応援される会社」の5つの類型のうち、愛着型応援タイプを取り上げる。「昔からのつき合い」「幼いころ・若いころの思い出」「地元」「馴染み」だから応援するという愛着型ブランドと顧客との間柄は、親戚や隣人、幼馴染みのような関係性といえるだろう。

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関東地方で180店以上の飲食チェーンを展開する「山田うどん」(埼玉県所沢市)。経営のモットーは「あまり気取りすぎない」ことだ、と山田裕朗社長は述べる。ヘルシーブームの逆風の中でも、ボリューム満点である「カロリーのK点越え」(山田社長)のメニューを変えない、洗練性を増してきた他のファミレスに追随しない、地元に密着した市民イベントには全面協力する、フランチャイズ展開してもいたずらに拡大路線に走らないなど、その姿勢は一貫している。

アイドルグループ「ももいろクローバーZ」とのコラボも行っている。その発端は、「ももクロ」のマネージャーが山田うどんの大ファンだったことにある。ライブの際に人気メニュー「パンチ(もつ煮込み)」を決まって皆に差し入れしていた経緯があり、単なるイメージキャラクターとして起用したわけではない。

麺のコシにもマネジメントにも、独特の「ゆるさ」があるのも一つの特徴である。フランチャイズチェーンでありながら店舗ごとの自由度が高く、接客マニュアルが存在しない。だからこそパートのおばちゃんが自らの工夫で温かいおもてなしができるのだ。こうした肩の力の抜けた対応は、客にも気を遣わせない独特の魅力がある。

山田うどんは周回遅れのチャンピオン

実際見かけたことがあるが、たとえオーダーミスが発生しても「あ~ら、ごめんなさい」で済まされる、ほんのりとした雰囲気なのである。商品についても、本部からの強い締めつけがないこともあり、店の裏庭でとれたウコンを販売する(現在ではこういう例はない)など、独自のメニューが用意されている店もある。

同社の営業企画部長によるツイッターアカウント「江橋うどん」(@ehashiudon)では、次のような自己紹介文が掲載されている。「山田うどんは埼玉生まれの関東ローカルうどんチェーン。(個人商店がちょっと大きくなったような会社です)昭和のたたずまいを現在も保ち、おばちゃん達の感性に頼る接客と普通に2人前のセットメニューが推しのお店です。昨今のさぬきブームに押されながらもなんとか頑張っております」。

今やファミレスですらそれなりに洗練され、高級化・システム化の道を辿りつつある。だがそれがかえって既存客に「居心地の悪さ」を与えている可能性もある。そんな中、山田うどんが周回遅れのチャンピオンとして君臨しているのは、「ゆるい」「変にカッコつけない」「無理しない」からだといってもよいのかもしれない。