外資系だから女性が登用されるわけではない。女性がマネジングディレクターになるのは堀江さんが2人目で、前の女性からは9年ぶり。男性上司たちが女性に与える仕事には、高く評価しにくいサブ的なものが多かった。自分に続く女性を育てるのが使命と燃えたが……。

いつもケガをしている怪しい人

アクセンチュア 執行役員 堀江章子●1993年、慶應義塾大学卒業後、入社。業務管理システムの構築、事業拡大・営業強化の支援などを担当。2014年に執行役員に就任、インクルージョン&ダイバーシティを統括。16年、アジアパシフィック地域証券業界責任者に就任。

堀江さんが「失敗」の2文字から思い出すのは、いつも同じシーンだ。

「もう20年も前のことです。電車とホームの隙間に落ちかけたんです。目の前に乗客の靴が見えていました。宙づり状態になったところを駅員さんと乗客に引っ張り上げてもらいました」

アクセンチュアに入社して4~5年のころ。経営コンサルティングを担当する部門に異動し、働くのが楽しく、仕事120%の毎日。そんなとき珍事が起きた。

「ボーっとしていたんでしょうね。引っ張り上げられて、もう1度電車の中に押し込められたから一層恥ずかしかった(笑)」

この一件だけでなく、当時は転んで足の靱帯(じんたい)を伸ばす、階段から滑り落ちてケガをする、ぎっくり腰になるなど、ツイていないことが度重なった。仕事はしっかりとやっているのに、周りからは「いつもケガをしている怪しい人」と見られていたとか。

仕事とプライベートのバランスが悪いのではないかと考え、お茶やゴルフなどの趣味をはじめて意識的に均衡を取って厄を払った。

仕事と昇進は順調だった。コンサルタントとして商社、通信、ハイテク、製造、金融など、さまざまな業界を担当、入社7年目でマネジャーに昇進。金融業界に携わったときは、上司から「セールスもやってみたら」と促され、さらに仕事の幅を広げた。

「私に営業が向いていると思ったんでしょうね。始めてみると、すごく楽しかった」

2007年、マネジングディレクター(経営幹部、以下MD)に昇進するときには、上司から「本格的に営業中心にやってみないか」と言われ、少し悩んだ。営業中心になると、顧客をほったらかしにする気がしたからだ。結局、新規開拓しながら、クライアント業務の責任者として特定の顧客を継続的に担当する「クライアント・アカウント・リード」も担うことで落ち着いた。