「話を聞いてほしい」と言われ、解決策を出してしまった

E子は、ある企業に長年勤務し、経営者からも信頼される総務課長だ。E子から聞いてほしい話があるとメールが入ったので、経営者は時間を割いて面談することにした。

「社長、聞いてください。総務課のY子さんですが、有能で仕事もできる人ですが、人間関係をうまく維持することが苦手で、若手へのOJTが進まず、後任の育成に支障が……」

と、話し始めた。

「聞いてください」と言われた経営者は、てっきり問題が生じ、その解決策を自分に求めに来たと思い込み、「それは困ったな。ではY子さんを別の部署に異動させたほうがいいのか?」と返答した。

するとE子は「社長、そういうことではないのです。部下たちの関係がギクシャクしている総務課の現状をご理解いただきたかっただけで、人事のご相談に来たわけではないのです。貴重なお時間を割いていただき申し訳ありませんでした」と不満そうな顔を見せて戻っていった。総務課長のE子が自分に何を望んでいるかが見えず、この経営者は困惑してしまった。

後日、その行き違いがどこで起きているかを知ることになった。ある日、妻から「ねぇ、ちょっと聞いてくれる?」と切り出されたこの経営者は、何か問題でも起こったかとドキリとし、問題解決をするよう頭を切り替えて話を聞いていた。

「……という事があってね。だからマンションの理事会は上手くいかないのよ」という話の流れになったので、「この機会に理事を退任すればいいんじゃないか」とアドバイスすると「そういうことを言ってるんじゃないの。私が一生懸命取組んでいることをわかってほしかっただけよ。もういいわ。貴方には話さない!」と言われてしまった。

「だったら相談などしなければいいじゃないか……」とつぶやいたものの「そうか。話を聞いてほしいと言われたら、問題を抱えて解決策を求めているのではなく、ただ耳を傾けていればよかったんだ」

と、ことの次第を理解した。

このような行き違いは、会社や家庭で頻繁に起きる。男女間の喧嘩の多くは、男性が問題解決脳なのに対して、女性は共有化脳であることにより起きるのだ。総務課長のE子や妻は、経営者に問題解決を望んでいたのではなく、いかに大変な状態だったのかという心情を共有してほしかっただけなのだ。

女性が男性に「聞いてほしい」と口にしたときは、問題解決を望んでいるのではなく“自分がどんな心情に陥っていたのか。あるいはどんなに大変な状況だったのかを、相手に共有して欲しいだけ”というケースが多い。そんなとき、男性経営者は余計な忠告をせずに耳を傾け、相づちを打てばいいだけだったのだ。

女性社員とのコミュニケーションに注意を払うべきは、経営者だけではない。経営幹部の言動も見過ごせない。いくら経営者が気を配っても、現場のトップが配慮に欠けると、まるで意味がない。そんな事例も紹介しよう。