最近の若き天才たちは、どこか伸び伸びとしている。周囲に練習を強制され、歯を食いしばるような苦しさは感じられない。なにが変わったのか。東京大学名誉教授の汐見稔幸氏は「個性や才能の伸ばし方が変わってきている」と指摘する。いまどきの天才たちが「学校以外」の場所で才能を伸ばしている理由とは――。

※本稿は汐見稔幸『「天才」は学校では育たない』(ポプラ新書)を再編集したものです。

驚異の中学生が登場

世間を驚かす中学生が相次いで登場し、連日メディアを騒がせています。

最も衝撃的だったのが、中学生棋士・藤井聡太四段でしょう。2016年10月に史上最年少でプロ入りするや、大人の棋士たちを相手に勝利を積み重ね、30年ぶりとなる公式戦29連勝という新記録を打ち立てました。

将棋を始めたのは小学校入学前、最初は子ども用の将棋盤で祖父に相手をしてもらっていたそうですが、小学4年生のときには養成機関である奨励会に入りました。その活躍に、将来の藤井くんをめざして、子ども向け将棋教室も活況を呈しています。

将棋の実力はもちろん、さらに私たちを驚かせてくれたのが、彼の受け応えと態度です。対局後に大勢の報道陣に囲まれるなか、とても中学生とは思えない落ち着いた口調で語る様子に新たな注目が集まりました。「実力からすると、望外の結果」「僥倖(ぎょうこう)としか言いようがない」といった彼の語彙力も、取りざたされています。

スポーツ界に目を転じると、サッカーのスーパーチーム、レアル・マドリッドの下部組織で活躍する中井卓大選手や、世界卓球選手権で日本のエース、水谷隼選手を破った張本智和選手、シニア顔負けの演技で体操界に新風を巻き起こす北園丈流選手と、話題の中学生がぞろぞろいます。

8歳のときにYouTubeに投稿した動画で華麗なテクニックを披露し、ブレイクしたギタリストLi-sa-X(リーサーエックス)、彼女も中学生です。

政治も経済も行き詰まりを感じる今、私たちはそういったある種の停滞をものともせず国内外で活躍する若いヒーロー、「天才」(スーパーヒーロー)たちの出現に私たちは元気をもらっています。

ところで「天才」とは、本来の語義からすれば「天性(天賦)の才能、生まれつき備わった優れた才能」を持つ人を指し、環境や本人の努力で「育つ」ものではありません。また、活躍するジャンルも、むしろ音楽やスポーツといった学業成績とは異なる分野で認められることが多く、その意味では「秀才」とも異なります。