「マインドフルネス」という考え方を取り入れることで、大きく人生が変わった人がいます。リクルートマネジメントソリューションズの足立美穂さんは、「5分間、相手の話をさえぎらずに聞く」というセッションを通じて、コミュニケーションの本質に気づいたといいます。プレジデントウーマン11月号の特集「心が強くなるマインドフルネス」より、実例を紹介します――。
(左)リクルートマネジメントソリューションズ HRDトレーナー/キャリア・コンサルタント 足立 美穂さん(右上・右下)今年の1月から5年日記をスタート。日々の出来事や気持ちを綴ることもマインドフルな時間。

自分でも持て余すほどの怒りを感じていた

企業研修の講師(トレーナー)として、経営層から内定者まで、さまざまなステージのビジネスパーソンに向けて研修や面談を行っています。働く人をサポートし、その成長を喜べるのはこの仕事の醍醐味です。

ただ、やりがいが大きい分、準備には時間がかかります。何社も並行して担当するため、頭のなかは常に仕事のことでいっぱい。たとえば次の出張について考え始めると、気になることが芋づる式に出てきてあっという間に30分が過ぎていた、ということもよくありました。

「来週の準備がまだ……」「航空券は予約した?」「報告書、仕上げなきゃ」「メールの返信、遅れてる!」……。ずっと仕事のことを考えているわりには、思考があちこちに飛んで整理ができない。ソワソワと落ち着かない気持ちが残るばかりで、決していい状態ではないことは感じていました。

同時に気になっていたのは、自分でも持て余すほどの怒りっぽさ。ふつふつと込み上げてくる怒りを抑えるどころか、どんどん油を注ぐように炎上させてしまいます。

たとえば仕事のパートナーである若手社員に対して、「なぜこのタイミングまで報告がないわけ?」でスイッチオン! そこからはとめどなく怒りが広がって、「彼女の上司は何してるの? 教育ができていない!」「そもそも知識不足が原因では?」「彼女にはこの仕事は早すぎる!」。怒りが加速して立ち止まれず、若手社員を泣くまで叱ってしまったことも……。

意思とは関係なく暴走していく感情、思考に気づき、それを落ち着かせるすべを得たことは、マインドフルネスからの大きなギフトです。先日、私の怒りの犠牲となった若手社員の様子を、耳にしました。本質をおさえて意見が言え、お客さまからの信頼も得ている、と。それを聞いて、心から「よかった、うれしい」と伝えることができました。

以前の私なら、「まだそこまでは無理でしょう。甘やかしちゃダメですよ!」と、怒っていたかもしれません。過去の経験や先入観にとらわれず、素直に聞き、それを喜べたこと。瞑想や呼吸法を通じて、今、ここに集中する訓練を重ねてきたことが、実を結び始めていると感じられた瞬間でした。