電気も、氷も必要ない「冷蔵庫」がある。「放射冷却」の原理を利用したもので、MIT発のスタートアップ企業がアフリカの途上国向けに開発した。冷却に必要な水は1日にたった約300ミリリットル。水は飲用でなくてもいい。電気がなく冷蔵庫を使えない人が、アフリカには5億人以上いる。冷蔵輸送も未発達で、消費者の手元に届く食品の45%は腐っているという。アフリカの食料事情を変える画期的な新商品とは――。

※当記事は「AF TECH」(https://af-tech.jp/)の提供記事です。

皆さんの自宅には、冷蔵庫はあるだろうか?

日本では、ほぼ9割以上の人が「YES」と答えるだろう。しかし世界に目を向けてみると、冷蔵庫どころかそもそも電気が通っておらず、生活家電を何も持たずに暮らしている人々がいる。

OECDが2010年に発表した調査結果によれば、アフリカ大陸で電気を使える状況にない人は約5億8000万人にのぼる。さらに驚くべきことに、この調査で予測された「2030年時点で電気が使えないアフリカ大陸在住者」は、6億5000万人。なんと増加するのである。急激な人口増加にインフラ整備が追いつかないことが、この予測の理由のひとつだ。

電気がなければ、多くの先進国で使われているような冷蔵庫は使えない。食品の保存ができないため、毎日スーパーマーケットや市場に買い物に行かねばならず、交通費も時間も馬鹿にならないのがアフリカで暮らす一部の人々の現状だ。家庭レベルにかぎらず、輸送においても冷蔵庫なくして衛生的な食品管理は難しい。

45%の食べ物が輸送中に腐る状況に対応

こうした状況に対応するべく、マサチューセッツ工科大学出身者によるスタートアップ「Evaptainers」では、電気を使わない冷蔵庫「EV-8」を開発し、途上国を中心に普及を目指している。

電気を使わない冷蔵庫「EV-8」(画像はEvaptainersのサイト http://www.evaptainers.com/より)

「Evaptainers」によれば、アフリカでは約45%の食物が消費者のもとに届く前に腐ってしまっているという。同社ではこの課題を解決するべく、電力がなくとも機能する簡易版冷蔵庫の開発に着手。途上国における家庭用ニーズや、配送時の問題への回答のひとつとして製品を開発した。

この冷蔵庫「EV-8」は、水さえあれば機能する。メカニズムは自分の体を想像するとわかりやすい。人間の体は熱いと汗をかき、それが蒸発する時に体温が下がる。「EV-8」は、この「放射冷却」と呼ばれる仕組みを利用している。