欧州のなかでもドイツは状況が違う

【安井】エネルギーの上流部分も考えて下流部分のクルマの在り方を考えなくてはならない所以ですね。下流部分でEVが勝った、FCVが負けた、なんて言っていてはダメなのですね。

【清水】ヨーロッパは今、ディーゼルがダメだと言われて、EVへと向かっているように見えますが、ドイツはやや違う状況です。将来、EV以外はダメとなったら、ドイツの速度無制限のアウトバーンは走れなくなってしまう。

モータージャーナリストの清水和夫氏

【安井】EVは時速180キロで走るとすぐに電池が切れてしまって、2時間、3時間走れませんね。

【清水】ドイツ人が考える理想のモビリティは、180キロですっ飛ばしても燃費のいいクルマです。

【安井】それはFCVぐらいしかないですね。

【清水】あるいはもっと進化させたガソリンエンジンでしょうか。ディーゼルは、今は評判が悪い。批判をかわすためにEVのカードを出しているのだと思います。水面下では、バイオ燃料などを使った次世代のディーゼルエンジンの開発が進んでいます。あるいはバイオから作る合成メタンで走るCNG車(天然ガス車)も有力です。

今年9月のショーでFCVが復活した

【安井】そうすると欧州ではダイムラーがFCVに力を入れていた時期がありますが、そういう熱はもうなくなりつつあるんですか。

【清水】なくなりつつあったんですが、ちょっと変化が見えています。今年9月のフランクフルトモーターショーでメルセデス、アウディ、BMWが電動車両の中にFCVを入れてきました。昨年は入れていなかったのですがね。

【安井】ドイツ勢はFCVを引き続きやるぞということですか。

【清水】航続距離、ハイスピードを考えたらFCVしかないと考えている。テスラショックに次ぐドイツ勢のショックは、トヨタが2014年末に発売した燃料電池車「MIRAI(ミライ)」のショックだったんです。特に驚いたのが「700万円」という価格でした。日本の現地法人が本社に「700万円」とレポートしたら、「ゼロ1個間違っている。7000万円だろ」と驚いたそうです。

【安井】ミライは市販されているのだから、購入して中身を調べたでしょうね。

【清水】調べてみると、日本的な匠(たくみ)の技術がさまざまなところに使われている。燃料電池を見ると、0.1ミリ以下という薄い膜を何十枚も重ねて1つのセルにして発電します。バラつきをなくして量産することを考えると、「こんなクルマを俺たちは作れるのか」と半ばあきらめていたのが数年前のこと。ディーゼルの排気ガス問題で「パンドラの箱」が開き、EVに注目が集まりましたが、バッテリーEVはドイツ勢にとって本質的な解決策にはなりません。というのは、「アウトバーン(ドイツの高速道路)」での時速150キロの高速走行にバッテリーは耐えられないからです。ハイ・スピードでちゃんと走れるEVが必要なので、やはりFCVしかないとあらためて気づいたのだと思います。