30代後半から40代の女性は「乳がん」の罹患率が高くなる。いまや「死ぬ病気」ではなくなったが、治療に成功した場合でも、治療費や仕事の両立で苦しむ恐れがある。もし罹患すれば、「30年後の貯蓄残高」は罹患しなかった場合に比べて8割減(2200万円差)になるという試算もある。乳がん治療の経験があるFPの黒田尚子さんが、そのリスクに警鐘を鳴らす。

がん再発以上に恐ろしいのは「収入減」

がん医療の進歩によって、がんは「死に至る病」ではなく、「完治する可能性のある病」あるいは、糖尿病や高血圧症などと同じような「慢性疾患」とも言われるようになった。
とりわけ、乳がんは他のがんに比べると、5年相対生存率も90%以上あり、相対的に生存率が高い。

となると、がんに罹患した者は、がんとどう付き合うか、共にどう生きていくかという「共存」の道を模索していかねばならない。そこで近年、「がん治療費の長期化・高額化」とともにクローズアップされているのが「仕事と治療の両立」についての問題である。

▼乳がんと診断後の1年間で、「2~3カ月」は働けない

「がんと就労」というのは、がん患者である本人や家族が生活する上で非常に重要な課題だ。なにせ、治療するため、生活するためには、お金が必要なのだから。治療が数カ月で終了するのであれば、その間、休職や離職しても、貯蓄を取り崩したり、親や親戚などから援助を受けたりして、しのぐことも可能だろう。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「がん治療と仕事の両立に関する調査」によると、最初にがんと診断されてから治療終了までの期間が「1年未満」という人が5割弱だが、「1年以上治療を継続」している人が半数以上おり、4年以上という人も約3割いる。

さらに、乳がん患者を対象に行った調査では、診断後1年間で、病気のために仕事や家事を休んだ日数は平均79.5日となっている(*1)

乳がんに罹患して約2~3カ月は働くことができない。家事など身の回りのことができない可能性が高いのであれば、その間の収入の減少や支出の増加を補填する何らかの経済的な資源が必要だということだ。

(*1)出所:平成24年度厚生労働科学研究費補助金がん研究事業(H24-がん臨床-一般‐012)山内班