国民から税金を徴収する組織のトップに、国民への説明を拒絶し続けた人物をすえる。国税庁長官・佐川宣寿氏の登用をめぐって、「官邸政治」の歪みが明らかになっている。しかしこの事実を正面から批判する新聞はわずかだ。それでいいのか――。
参院予算委員会で答弁する財務省の佐川宣寿理財局長=2月28日、国会内(写真=時事通信フォト)

各紙の社説はなぜ取り上げないのか

これこそ官邸政治の弊害ではないか。そう指摘しても過言ではない事態が起きている。政府が7月4日に公表した国税庁の長官人事のことである。国会で森友学園問題を追及する野党の質問に対し、繰り返し答弁に立ち、調査を拒否し続けた財務省の官僚を国税庁長官に据えた。「安倍政権を守った論功行賞だ」との非難の声が上がり、全国紙では朝日新聞だけが社説で厳しく批判した。

7月5日付の朝日の社説から詳しく見ていこう。

見出しで「国税長官人事 政権の体質の象徴だ」と安倍政権の本質をズバリ指摘する。そのうえで「新しい国税庁長官に佐川宣寿・財務省理財局長が5日付で昇任する。森友学園問題を追及する野党からの国会質問に対して何度も答弁に立ち、徹底調査を拒み続けた人物だ」と書く。

さらに佐川氏登用の経緯について「佐川氏は大阪国税局長や国税庁次長を歴任しており、麻生財務相や菅官房長官は『適材適所』と口をそろえる。役所の通常の人事異動の発想で財務省が案を固め、首相官邸もすんなり認めたのだろう」と簡単に説明する。

麻生財務相の言葉にだまされてはならない

実際、財務省の理財局長から国税庁の長官に就くのは佐川氏で4代連続。そのためか財務省内で今回の人事は「順当だ」との見方が強い。

この観点から麻生太郎財務相は4日の財務省人事の発表の席で、佐川氏について「丁寧な説明に努めてきた。特に瑕疵(かし)があるわけでもない。国税庁次長や大阪国税局長といった税の関係をいろいろやっているので適材だ」と強調していた。

しかし国民は財務省内での評価や麻生財務相の言葉にだまされてはならない。

朝日社説も「安倍政権には大事な視点が抜け落ちていないか。納税者、さらには国民がどう受け止めるか、という問題である」と主張し、具体的に「大阪府豊中市の国有地はなぜ、周辺と比べて9割安で森友学園に売られたのか。安倍首相の妻昭恵氏を名誉校長とする小学校の建設用地だったことが、財務省の対応に影響したのではないか。森友学園問題では、国民の財産を巡って不透明で不公平な行政が行われたのでは、と問われ続けている」と畳み掛ける。