敬語の使い方でよくある間違いは、職場の上司に対する尊敬語をそのまま社外で使ってしまうケースでしょう。社内では「社長がそうおっしゃっていました」が正しくても、社外では「社長がそう申しておりました」というように身内に対する謙譲表現に変えなければなりません。このような混乱は中級者レベルでもしばしば見受けられます。

昭和女子大学学長 坂東眞理子
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昭和女子大学学長 坂東眞理子

敬語は訓練によって身につけていくしか方法がありません。職場には敬語に詳しい人がいるものです。その人の言葉遣いを真似てみたり、書いたものをチェックしてもらうなど、「人みな、わが師」の気持ちで教えを請うことはとても大切だと思います。

若い人の文章に「うれしいです」「おいしかったです」という表現を目にすることがありますが、本来ならこれは「うれしゅうございます」「おいしゅうございました」とすべき丁寧語です。ただ、借りてきた言葉のように文章の中で浮いてしまい、逆に違和感が出てしまうのであれば、先ほどの具体的に事実を述べていく手法が役立ちます。例えば「おいしゅうございました」を「本場のものだけあって風味もひとしおでした」と言い換えるのです。

敬語に限らず、言葉はすべてケース・バイ・ケースです。相手やその場の状況を踏まえて自分の言葉で苦闘しながら対応していかなければなりません。話し言葉はヒアリングが大事であるように、書き言葉はまず相手の文章を読むことが大事です。つまり相手を読むのです。『修証義』という仏典の中に「向かいて愛語を聞くは、面おもてを喜ばしめ、心を楽しくす。向かわずして愛語を聞くは、肝に銘じ、魂に銘ず」という言葉があります。

「愛語」とは相手を思いやる言葉です。相手のことを考えずに美辞麗句を連ねても人の心を打つことはできません。愛に満ちた言葉、相手を温かく思いやる言葉こそが、時空を超えて人の心を打つのだと思います。

とんでもございません……「とんでもない」はひとまとまりの形容詞なので、「ない」の部分を活用するのは誤り。「いいえ、とんでもない」と言い切るか、「とんでもないことでございます」に。
お求めやすい……「読みやすい」の尊敬語は「お読みになりやすい」。同様に「お求めになりやすい」とするのが正しい。
うれしいです……「です」は本来、体言につく。「うれしゅうございます」、もしくは「うれしく思います」に。
やらさせていただきます……使役の助動詞「させる」を謙譲語として誤用した「さ入れ言葉」が氾濫しているが、これは不自然。「やらせていただきます」または「させていただきます」に。
よろしかったでしょうか……丁寧表現のつもりで意味なく過去形を使ってしまっているケース。「よろしいでしょうか」とすべき。